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2025年4月8日火曜日

IBM量子コンピュータ(Heronプロセッサ)におけるエラー発生の低減

【要旨】量子もつれを用いた例題Mermin-Peres-Magicを、IBM量子コンピュータ新鋭機ibm_torino (Heron r1プロセッサ)で実行させた結果、ノイズ等によるエラーの発生率が、以前のibm_brisbane (Eagle r3プロセッサ)に比べて、ほぼ半減することが分かった。これにより、所望の正解が得られる成功率は、86%から92%に大きく改善された。今後出現するであろう華々しい成果は、このような長年の地道な研究開発によるものなのだと実感できた気がする。

🔴誤り低減を目指す量子コンピュータの進展
 Eagle(鷲)は攻撃的で強く、Heron(鷺)はしなやかで強いというイメージがあるという。IBMがそれを念頭において量子コンピュータに命名したのかは定かではない。IBMはこれまで、無償で量子プロセッサEagle r3(マシン名 ibm_kyiv, ibm_brisbane)を提供してきたが、この3月から、新鋭機Heron r1(マシン名 ibm_torino)を追加した。Heronは、Eaglelよりも、大幅にエラー発生率が低減されて強力になったという。そのハードウェアの仕組みは私には分からないが、最大の難題の一つであるエラー低減に向けて着実に進展していることが窺える。

🔴量子コンピューティングプラットフォームQiskitの更新
 IBMは量子コンピューティング開発環境Qiskitを頻繁にバージョンアップしているが、今回、Heronプロセッサの無償公開に合わせて、さらに大幅な改訂を行なった。そのための移行説明会もオンラインで行われた。実際、これまでの量子プログラムは環境を色々と修正しないと動かない状況である。だが、そこを何とか調べて、Heronプロセッサもようやく使えるようになった!!!

🔴量子もつれの例題「Mermin-Peres-Magic」をHeronプロセッサで動かす
 このHeronプロセッサの性能を十分に発揮できるような量子アプリを見つけることは容易ではない。しかし、自分がやれるアプリを少しづつ動かして、自分のスキルを高めることができるだろう。そういう思いで、量子もつれが本質的に効いている「Mermin-Peres-Magic」をやってみた。それがどんな問題かは、過去に書いたこちらの記事をご覧いただきたい。
 ごく簡単に言えば、この問題に対しては、古典的には100%成功する方法は無いが、量子的方法(量子もつれ)では、必ず100%成功させることができる。ただし、実際の量子コンピュータでは、ノイズ等による誤り発生のため、失敗するケースも出てくる。

🔴Heronプロセッサではエラー発生が着実に低減されていた!
 詳しいことは省略するが、図1をご覧いただきたい。この例題を実行した場合のエラーの発生率が、Eagleプロセッサに対して、約半減されることが分かった。すなわち、本来の得たい正解を得る場合の失敗率は、14.0%から7.9%に大幅に低減されたのである。これによって、正解を得る成功率は、86%から92%に上昇した。私自身の、しかも一つの例題の実測結果に過ぎないのだが、これによってモチベーションは確実に高まった!こうして、技術は進歩するものなのだと。


2024年8月1日木曜日

量子コンピューティングの学びについて考える

 まだまだ猛暑続きだが、8月に入ってしまった。ここで、改めて量子コンピューティングの学びについて述べたい。そのきっかけは、米国のある有名高校(多分、日本の超難関高校に相当)の先生からいただいたメールである。それは、彼がある別の米国人からの紹介で、私の量子コンピューティングの学びに関するこのブログを知ったことによる。彼は次のように述べているのだが、大いに共感できる。

 彼は、この高校の数理系の教員だが、量子物理学で博士号を持つという素晴らしい人物である。物理学関係の研究所での勤務経験もある。この高校での来年度に向けて、「革新的テクノロジー」というパイロットクラスを編成し、高校低学年で、最初にAIと機械学習を教え、次に量子情報を教える予定とのこと。量子に関することをできるだけ早く教え始めることは可能であり、必要であると考えているようである。一般の大人は、ずっと古典物理学的な観点の世界で生きてきたので、量子の世界に入ることにはかなり抵抗があるが、若い生徒はそうではなく、量子の概念や論理に素直に入ることができると感じると述べている。

 彼は、教育におけるゲームに関する教師向けのSEPTプログラムに参加し、同僚と一緒に量子コンピューティングを教えるためのカードゲームを作成している。さらに関連アプリも作成したいとのこと。その際に私(山本)の作成したアプリを利用したり、参考にしたいとのことであった。一方、私の量子関係アプリは、振り返ってみると、造りがかなり複雑になったり、冗長であるところも多い。もっと、シンプルで扱いやすい構造にして、生徒にも親しめるアプリに改造したいと考えているところである。

 これまでに作ってきたブロッホ球模型と、量子関係アプリのいくつかの画面を、改めて以下に掲載する。これを眺めならが、どのように改善すべきかを考える。厳しい暑さが過ぎた頃には目処をつけたいのだが、保証はできない... だが、この分野で著名なMITの教授から頂いた以下のコメントが大いに励みになっている。

"I greatly enjoyed reading your blog post article. Your handmade plastic Bloch sphere is very appealing, and I appreciate how you are making such a kind effort to reach a new and young audience who may someday be important to the field.", by Prof. Isaac Chuang (MIT)


my Bloch sphere
my quantum apps logo


2024年3月15日金曜日

動画:量子コンピューティングに親しむためのスマホアプリ

"量子コンピューティングに親しむためのスマホアプリ"の動画をここに公開しました。
神奈川工科大学「ITを活用した教育研究シンポジウム2023」で発表したものです。

"量子コンピューティングに取り組む"の動画はここに公開しました。
神奈川工科大学「ITを活用した教育研究シンポジウム2022」で発表したものです。

2024年3月12日火曜日

量子コンピューティングを学ぶためのアプリをMIT App Inventorで開発(総集編)

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この記事は、「MIT App Inventorで量子コンピューティング」の総集編であり、こちらの英文記事の和訳です。
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I would like to thank Prof. Isaac Chuang, MIT for reviewing this blog post and providing very positive feedback.

 私は、日本の神奈川工科大学の名誉教授(コンピュータサイエンス)山本富士男です。実用的な量子コンピュータはまだ完成していないが、それが実用に供されれば社会に与える影響は非常に大きいと予測されるので、企業や大学での量子コンピューティングに関する研究開発は盛んになっている。私は、量子コンピューティングの基礎を学ぶための多数のアプリを、App Inventorを用いて開発を行なってきた。その目的は、関数電卓を使うような手軽な感覚で、少数の量子ビットを使う計算を楽しむことにある。だが、それだけではない。小規模であっても、量子回路シミュレータなどのアプリを自作するならば、理解は一層深まるに違いない。そのように考えて行ってきた取り組みを紹介したい。
 最初に、最も基本となるシングル量子ビットとはどんなものなのかを、自分の操作で確かめられるアプリを作成した。つまり、古典ビットに対する演算に該当する量子ビット操作のためのシミュレータアプリである。次に、2量子ビット、または3量子ビットを使う量子アルゴリズムのための、量子回路シミュレータアプリを開発した。実際、数例の量子アルゴリズムをそのシミュレータで再現してみた。最後に、別の観点から、大量の量子ビットのストリームを入力とする、個別のアルゴリズムについて、それぞれの動作原理の把握を容易にするアプリも開発した。

●何と言ってもまずはQubit(量子ビット)
 まず、基本となる量子ビットがある。これは、0と1とを値とする従来のビットとは大きく異なる。量子ビット(Qubit)は、下図に示すようなブロッホ球と呼ばれる球面上にあると考えられる。北極点は従来の0、南極点は1に該当する。したがって、量子ビットは、一般に、北極点と南極点をある確率で重ねあわせた状態にあると言える。量子ビットは「測定」という操作を行うことによって初めて、その値が0か1かのどちらかに、確率的に確定する。測定するまでは、0と1の値が重なった状態にある。その不確定な状態のまま、種々の操作、すなわち演算を行うことができる。演算の結果として、qubitの状態、すなわちブロッホ球面上の位置が変化する。その際の変化に随伴する情報を利用して、必要な計算を進めることができる。複数の量子ビットの場合は、それらの情報の相互干渉さえも有効に利用できる。では、最初に、単一量子ビットの場合を見てみよう。
 量子ビットの状態をどのような方法で変化させるのだろうか?それに答えるのが、下図に示すアプリである。ブロッホ球面の量子ビットの緯度と経度を、(a)のようにスライダーで自由に変えることができる。しかし、通常は、むしろ、量子ゲートと呼ばれる演算で変える。例えば、アダマールゲート(H)を、北極点の状態に適用すると、それは赤道上に移動する。下図の(b)では、Hゲート適用後にさらにSゲート(赤道上を90°回転)を適用した例である。他にも多数の量子ゲートを利用できる。
 
●2量子ビットを一つのシステムとして扱う
 一つの量子ビットだけでできることは少ないが、2量子ビットを使うと、急に様子が変わる。一般に、複数量子ビットを扱う場合には、個々の量子ビットを個別に扱うのではなく、一つのシステムとみなすことが必要となる。例えば、2量子ビットの場合、下図のように一方にHゲートを適用し、次に、両者に跨るCNOT(Controlled NOT)を適用すると、有名な量子もつれ状態(Bell状態)にすることができる。
 この場合の量子もつれとは、AliceとBobの量子ビット間に、強い相関関係が生ずることを意味する。すなわち、たとえ、AliceとBobが遠隔にあっても、Aliceが自分の量子ビットを測定して0を得た場合は、Bobの量子ビット自動的に即座に0になる。同様に、測定結果が1であれば、両者とも1となる。以下の図のアプリは、その状況を示している。
 しかしながら、現状の量子回路シミュレータや量子コンピュータでは、AliceとBobが遠隔にいるというイメージを持つことができない。そこで、私は両者の量子ビットをそれぞれ別のモバイイルフォン割り当てることにした。これらにコントロール用の1台を加えて、3台のモバイルフォンの構成で、遠隔にある量子間のもつれを模倣し、実感できるアプリを作った。下図にそれを示す。この図のトップにある、Cloud DB(リアルタイムDB)は、量子もつれの効果を表現する上で重要な役割を果たしている。

●3量子ビットを使う色々な量子アルゴリズム
 次のステップとして、種々の基本的な量子アルゴリズムを試すには、3量子ビットが必要となる。だが、上記のように、各量子ビットを1台の台のスマホに割り当てる方法は、煩雑になるので採用しないことにした。それに替えて、ここでは、1台のモバイルフォンで3-qubitを扱えるように、新たに設計し直した。そのアウトラインを下図に示す。
 この3-qubitシミュレータアプリを使って、例えば、以下のような量子アルゴリズムを実装することができた。
(1) Phase kickback(制御ビットへの位相変化の戻し)
(2) Grover’s algorithm(構造化されていないデータの探索)
(3) Superdense coding(少数の量子ビットで多くの古典ビット情報を送信)
(4) Quantum Fourier Transform(to find out the frequency of coprime powers sequence)

 詳細説明は略すが、このうちの(2)のGrover’s algorithmの実行例を下図に示す。(a)では、8個の要素のうちの、探索対象をマーキングしている。(b)では、確率振幅の増幅という手法で解を求めている。
 もう一例示そう。次の図は、量子フーリエ変換QFTの利用例である。詳細説明は略すが、ここでは、ある数列(coprime powers sequence)から、その構成要素のパタンの周期、あるいは周波数を求めている。この結果は、IBM Quantumマシンでの実行結果と一致することも示している。このような周波数の検出は、Shor’s素因数分解アルゴリズムでも重要である。

●大量の量子ビットのストリームを入力とするアルゴリズム 
 ここまでは、汎用的な量子回路シミュレータ利用であったが、次に、個別の量子アルゴリズムに特化した、説明用アプリを示す。例えば、大量の量子ビットのストリームを入力とするアルゴリズムがいくつかある。ここでは、光子の偏光の量子計算モデルと、量子もつれを利用する量子鍵配送を取り上げる。

(1) 量子計算モデルに基づく光子の偏光
 Qubitは、電子のspinや光子の偏光で表現される。ここでは、後者を扱う。今、偏光板3枚の軸角度を様々に変えて重ねる。その状態で物体を見た場合の明るさを問題とする。その際に必要なのは、入射される大量の光子が、それぞれの偏光板を通過する確率の計算である。作成したアプリでは、それらの通過確率を、偏光板の色の透明度に反映させて、実際の見え方を模倣した。その様子を下図に示す。

(2) 量子もつれに基づく量子鍵配送
 次のアプリは、量子鍵配送プロトコルEkertのイラストレーションである。このプロトコルでは、2者間の情報が第3者に盗聴されたか否かを確実に判定できる。その方法では、もつれた状態の量子ビット対から成る十分長いストリームを用意する。対の一方をAliceが、他方をBobが受け取る。各対毎に、両者はそれぞれ独立に、3種類の基底から一つをランダムに選び測定を行う。全ストリームの受信を完了後、両者はそれぞれ、古典ビット列(測定結果)と選択基底の列を得ることになる。
 明らかに、確率2/3で両者の基底は合致しない。もつれた状態において、両者が異なる基底で測定した結果は、確率1/4で合致することが、Bellの定理で示されている。ただし、それは、第3者による盗聴が無い場合である。
 一方、例えば、第三者Eveが、AliceとBobの測定よりも前に量子を盗聴したとする。盗聴には必ず、適当な基底での測定が必要となる。その結果、AliceとBobの量子対のもつれ状態が消失することに起因して、測定結果の一致確率は3/8に上昇する。これにより、盗聴を検出できる。これをシミュレートするアプリの様子を下図に示す。理論値通りの実行結果が得られていることが分かる。
 
まとめ
 量子コンピューティングの基礎に親しむためのモバイルフォンアプリとして、量子回路シミュレータや量子アルゴリズムのイラストレーションを開発してきた。これらの開発は、すべて、MIT App Inventorのみを用いて、効率的に行うことができた。App Inventorは、このように、新しい分野を学ぶためのアプリの開発に極めて有用であることを再確認できた。
 なお、この記事で省略した内容の詳細をご覧になりたい場合は、以下のブログ記事を参照いただきたい。ここには、約90件の関連記事の一覧が掲載されている。

In these developments, the books [1] , [2] and [3] written by three professors, Chirs Bernhardt, Barry Burd and Shigeru Nakayama, respectively, were very helpful.

参考文献

[1] Chris Bernhardt: Quantum Computing for Everyone, The MIT Press, 2020.

[2] Barry Burd: Quantum Computing Algorithms -Discover how a little math goes a long way, Packt Publishing, 2023.

[3] Shigeru Nakayama(中山 茂): Quantum app Qni, Gaia Education series 52, 2022. (In Japanese)

 

2023年7月22日土曜日

量子コンピューティングの新刊和書2冊

 最近、新たに2冊の量子コンピューティング関係の書籍を買ってしまった。紙の本は狭い部屋を圧迫するので極力買わない方針なのだが、魅力に惹かれてしまうのである。

 まだ数年〜十数年は、今のコンピュータで済むだろうから、と(気にしながらも)放っている大学の先生も多いだろう。だが、(よく言われる通り)かって、体育館くらいのスペースを占めていたスーパーコンの性能を凌駕するスマホを、今や誰もが当たり前のように使っている。量子コンピュータも、いずれそのようになるはずである。それがどのくらい急速に進むかは誰にも予測は難しい。そういう状況であるから、この分野において、大学等での取り組みが本格化し始めているのは自然である。
 量子コンピューティングの洋書は非常に増えている。一方、優れた和書も幾つか出版されているのだが、(一般向け啓蒙書を除くと)入門と専門の中間くらいの難易度のものが多く、(専門家としてのプライドなのか)厳密性を過度に維持したり、読者の知りたい「途中計算」を自明なこととしてカットしているものも見かける。

 そんななか、束野仁政著「量子コンピュータの頭の中」は、かなり丁寧にコツコツと量子コンピューティングを理解できるように書かれた、とても好感の持てる書である。基本事項から、かなり高度なアルゴリズムまでを非常にわかりやすく解説している。さらに、IBM Quantum実機を動かして理解を深められる。待望の入門向け和書である!

 もう一冊は、中山茂著「対話的量子プログラミング入門」である。これは、表紙に「VSCode x ChatGPT」と書いてある通り、ChatGPTに自然言語で問い合わせて、Qiskitなど、IBM Quantum実機で動くコード等を自動生成させる方法を書いたものである。小生自身も、すでにそのようにしてQiskitコードの一部を生成させていた。だが、気に入らないコードが生成された場合、対話で修正しようとしているうちに、的が外れて発散してしまうケースも経験している。本書ではそういう場合に対するヒントも得られそうである。

2023年5月14日日曜日

量子力学計算に基づいて偏光板を模擬するスマホアプリ

[要旨] 偏光板の重ね合わせで起こる不思議な現象は、量子コンピューティングの数学モデルによって、すでに説明がついている。→こちらと→こちらにその記事を書いた。今回の記事では、その原理に基づいて開発したスマホアプリ(with MIT App Inventor)について述べる。実物の偏光板で行ったのとほぼ完全に同じ結果を得ることができた。

→その後の改訂版はこちらです。

■スマホアプリの概要
 今回のスマホアプリの外観は図1のようである。動作原理は、既報と同じなので詳細は略す。要点は、ある偏光板に到達した光子の偏光角度がθで、その偏光板の軸角度がαである場合、光子がそこを通過する確率を計算できることである。αとθが等しい場合は通過確率 = 1.0、両者が直交する場合は通過確率 = 0.0 となる。
 スマホ画面での見え方は、偏光板に相当する円盤の塗りの透明度を、その通過確率を適用して調整すれば良いのである。実際の偏光板は正方形が多いが、ここでは、回転処理を簡単にするため円形を用いた。その円盤の回転を明示するため、スライダーを用いて、中心から円周に至る1本の直線を回転させた。 
 なお、最初の偏光板1に到達する光子の偏光角度は全くランダムなのであるが、ここではそれを何らかのフィルターを通して、ある偏光角度になっていると仮定する。一例として、偏光板1に到達する光子はデフォルトでは45°に偏光しているが、ランダムな角度に設定することもできる。


■
スマホアプリの実行例

 3枚の偏光板を使う操作例を図2に示す。以下の手順で観察する。
  1. 画像に1枚目の偏光板を置くため、偏光板1にチェックをつける。軸角度は0°になっており、この方向に偏光した光子だけが通過するので少し暗くなる。(上記仮定から、光子の通過確率は0.5となるためである。)
  2. 次に、一番手前の偏光板3にもチェックをつけて、偏光板3を重ねた状態にする。偏光板3のスライダーを右へ動かすと段々暗くなる。軸角度90°では光子は全く通らなくなり、真っ暗になってしまう。
  3. さらに、偏光板1と偏光板3の間に入れる偏光板2にもチェックをつける。そして、その偏光板2のスライダーを右へ動すと段々見えてくる。軸角度45°の時が一番よく見える!この場合、偏光板1を通過した光子が偏光板3も通過する確率は、下図右側の通り、0.25となり、ある程度が画像が見えてくる。

 この操作例はYoutubeビデオとしてここに公開しているので、ご覧いただきたい。

■感 想
 光子がどのように種々の軸角度の偏光板を通過するか(あるいは吸収されるか)は、量子力学計算で明らかにできる。それを、これまでに、机上計算、IBM Quantum実機、今回のスマホアプリの3通りで実現できた。量子コンピューティングの最も基本的な概念の一部の理解を深めるのに非常に有効だと感じた。

 今回のアプリは、MIT App Inventorを用いて、着想から半日程度で実装することができた。(ただし、ユーザインタフェースはその後も手直しはした。)この経験から、「実感する科学」「身の回りの数学」「セミナー」などの題材検討にご参考になれば幸いである。

2023年3月25日土曜日

20年前の論文に掲載されていた量子コインゲーム

[要旨] 量子コンピューティングの解説ビデオは多数ありますが、最近、Youtubeで "A beginner's guide to quantum computing" を視聴しましたので、その私の理解を書きます。IBMのShohini Ghose氏による、10分程の英語の分かりやすい解説です。量子コンピュータとは何か、それがどんなインパクトを与えるかも簡潔に述べられていますが、特に量子重ね合わせ (superposition)を、コインゲームで解説しているのが特徴です。最後に書きましたが、私の自作ブロッホ球も役立った!


■簡単なコインゲーム(従来コンピュータ版)
 ルールは以下のように簡単です。Q (コンピュータ)とP (あなた)が交互に操作します。(このゲームの由来は[補足2]をご覧ください。)
  1. まず、 コインを表にする。以下の操作を行う。
  2. Qは、裏返すか否かのどちらかを行う。Pにはその結果は分からない。
  3. Pは、裏返すか否かのどちらかを行う。Qにはその結果は分からない。
  4. Qは、裏返すか否かのどちらかを行う。Pにはその結果は分からない。
  5. コインの状態を見る。表ならばQの勝ち、裏ならばPが勝ちとなる。
 この手順を、図2に示します。コンピュータQが勝つ確率が50%であることは明らかです。ちょっと退屈なゲームですが、これは次節への準備です。
■簡単なコインゲーム(量子コンピュータ版)
 次に、このゲームを量子コンピュータで行います。ルールは上記と基本的に同じです。とはいえ、従来コンピュータとは全く異なる世界になるので、使うコインも従来のコインではなく、量子コインです!以下のようなルールになります。
  1. まず、量子コインを表(すなわち、 |0>)として、以下の操作を行う。
  2. 量子コンピュータQは、ユニタリ演算を実行する。Pにはその結果は分からない。
  3. Pは、裏返す(Flip)か否かのどちらかを行う。Qにはその結果は分からない。
  4. Qは、ユニタリ演算を実行する。Pにはその結果は分からない。
  5. 量子コインをZ基底で測定して、 |0> ならQの勝ち、 |1> ならPの勝ちとなる。
 ここで、QとPではやることが違うんじゃないの?という疑問が湧くかも知れません。確かにそのようにも見えますが、ここでのルールは、Qは量子コンピュータなのですから、Qは「量子的」に裏返し(Flip)、あなたPは古典的に裏返す(Flip)ということなのです。この手順を、図3に示します。実は、コンピュータQが勝つ確率は、100%になります!
■量子コンピュータがなぜ、必ず勝てるのか?
 量子コンピュータが必ず勝つ理由は、このビデオで簡単に以下のように口述されてはいます。

During the game, the quantum computer creates this fluid combination of head and tails, zero and one, so that no matter what the player does, flip or no flip, the superposition remains intact. But in its final move, the quantum computer can unmix the zero and one, perfectly recovering heads so that you lose every time.

 でも、多くの人は腑に落ちないでしょう!その答えは、量子回路を具体的に作ってみれば分かります。図4がそれです。上記に示した、量子コンピュータQが行うユニタリ演算は、ここではHadamard変換(H)としています。一方、Pが量子コインを反転させる場合はビット反転を意味するPauli X(+)を、反転させない場合はIdentity(I)を適用します。
 この量子回路をIBM Quantum実機で1024回実行した結果が図5です。いずれの場合も量子コンピュータが常に勝ちました!ただし、本来は100%であるはずが、1%〜2%負けているのは、量子コンピュータの誤作動によるものです。(現状の量子コンピュータはそうなります。)
 さて、図5のように量子コンピュータQが常勝した理由は、Qが2回Hadamard変換Hを行なっていることにあります。初期状態は|0>ですから、Qが最初にHを行った後の量子状態ベクトルは、X軸正方向と赤道の交点を指しています。そこでPがビット反転(+)を行なっても、量子ベクトル状態に変化が生じません。なぜなら、このビット反転操作は、X軸まわりに量子ビットをπだけ回転さえる操作になるからです。その後、Qは再度Hを実施するので、量子状態は|0>に戻ってしまいます。その状態で測定する(量子コインを見る)のですからQの勝ちとなるのです。

 以上で説明を終わるのですが、さらに、Qni量子回路シミュレータでも確認したいと思います。図6がそれですが、QとPが行う各操作毎に、量子状態ベクトルがどうなっているかを示しているので、分かりやすいと思います。
 さらにもう一つ。このコインゲームの操作は、単一ブロッホ球面でのHadamardゲートとPauli Xゲートの適用となるので、直感的にとても分かりやすくなります。図7でそれをご覧ください。自作ブロッホ球がこんなところで役立った!

[補足1]
 量子状態が|0>であるならば、Pは、Pauli Xによる裏返し操作で、コインの裏側を意味する|1>へ移行させることができます。その逆方向も然りです。しかしながら、Qは、Pの手番になる前にHadamardを実行(重ね合わせ状態へ推移)しているので、コインは反転しません。ともかく、ここでは厳密な意味での対戦というよりも、量子重ね合わせを説明する例題と考えた方が良いと思います。
[補足2]
 後で分かったのですが、このコインゲームは、D.A. Meyerという人の1999年の論文に示されているとのことです。それはペニーフリップゲームと名づけられており、初期の量子コンピューティングの研究成果のようです。単に、単純なゲームのように見えますが、深い洞察が含まれているようです。私の上記の理解と合致しているか否かは自信がありません。今から20年以上も前にすでにそのような研究が行われていたことは驚きです。

2023年3月4日土曜日

MIT Technology Review(日本語版)に載った量子時代の展望

 MIT Technology Reviewという雑誌は聞いたことはありますが、今回初めてその日本語版を購入してみました。というのも、質の高そうな「量子時代のコンピューティング」という特集があったからです。雑誌自体の装丁、デザイン、紙質なども高級感溢れるものです。定価は2,200円です。
 緻密な文章構成で、注目すべきタイトルの多数の寄稿が見られます。私が、特に関心を持って読み、大いに力づけらた以下のような記事が含まれています。

●中村泰信(理研 量子コンピュータ研究センター長)への特別インタビュー
「超伝導量子ビットの生みの親が語る量子コンピュータの研究の未来」
 私の勝手な感想:
 聞き手が、「日本は量子コンピュータの分野で米国、欧州、中国の後塵を拝しているが、...」で始まる問いに丁寧に回答されています。その中で、浮き足立つことなく「動作原理からして、何でもかんでも量子コンピュータが有利という訳ではない」と冷静に解説されているのが印象的です。もちろん、その上で強い研究開発への思いを語られています。

●グーグル vs. IBM
「量子コンピュータ開発の熾烈な覇権争い」

●サンダー・ビチャイ(Google CEO)への独占インタビュー
「Googleはなぜ量子コンピュータに投資するのか?」

●暗号が破られる日に備えよ
「耐量子アルゴリズムの必然性」

●量子技術集団Qunasysが巨大企業から注目される理由

2023年1月23日月曜日

量子コンピューティングに取り組む時がきた

量子コンピューティングに関する私の記事の一覧を載せてあります。約 90件あります。
Here is a list of my articles on quantum computing. There are about 90 titles. Most of the articles are in Japanese, but there are also articles in English (■ or ● at the head).
➡️約12分間のまとめビデオは、ここに(Youtubeに)公開しました。

2022-04-08
2022-04-10
2022-04-15
2022-04-17
2022-04-20
2022-04-25
2022-05-05
2022-05-09
2022-05-11
2022-05-16
2022-05-24
2022-05-28
2022-05-30
2022-06-03
2022-06-12
2022-06-21
2022-07-06
2022-07-15
2022-07-16
2022-07-31
2022-08-05
2022-08-06
2022-08-19
2022-08-25
2022-08-26
2022-08-28
2022-09-01
2022-09-02
2022-09-10
2022-09-15
2022-09-18
2022-10-05
2022-10-08
2022-10-21
2022-10-24
2022-10-27
2022-11-04
2022-11-10
2022-11-16
2022-11-24
2022-11-28
2022-12-01
2022-12-02
2022-12-04
2022-12-11
2022-12-12
2022-12-13
2022-12-21
2022-12-31
2023年4月28日金曜日
2023年10月23日月曜日
2023年12月5日火曜日
2023年12月19日火曜日
2024年1月7日日曜日
2024年1月26日金曜日