2022年7月15日金曜日

量子コンピューティング国際会議Q2B22 Tokyo参加レポート

 この会議名Q2Bから連想されるとおり、開催趣旨は、"Toward the practical use of quantum computing". 以下のような講演タイトルは、私を参加へ駆り立てるのに十分でした。(下記を含め合計55件の講演がありました。)
・コヒーレントな量子アニーリング:西森秀稔(東工大特任教授)
・量子コンピュータが導く最適な配送ルート:井手貴範(アイシン)
・量子アニーリングで何ができるのか、自ら検証すべき理由:香月諒大(NTTデータ)
・日立CMOSアニーリングの概要と開発状況:山岡雅直(日立)
・Quantum in the Enterprise:Hossein Sadeghi Esfahani (D-Wave)
・Defining the Quantum Accelerated Supercomputing Platform:Tim Costa (nDIVIA)
・IBM Quantum:Stefan Erlington (IBM Quantum)
・Quantum Computing on AWS and Amazon Braket:宇都宮聖子(Amazon Web Service)
・Theoretical Foundations of Quantum Advantage:Francois Le Gall(名大教授) 

東京での開催となった実用量子計算国際会議Q2B22
 量子コンピューティングの(製造、素材、自動車、金融等々での)実用を議論する国際会議Q2B-Practical Quantum Computingは、2017年から米国で毎年開催されてきた。6回目を迎えた今年は日本での対面開催(The Westin Tokyo, July 13-14, 2022, Exclusively In-Person, Co-hosted by QCWARE & Qunasys)となった。2日間の会議において、この業界を代表する日米欧の研究者、ユーザー企業、行政機関、量子ベンダから55件の講演があった。小生は、量子コンピューティング(特に量子アニーリング)が、企業などでどのように実用されているのか、そしてその課題は何かを直に知る絶好の機会ととらえて参加した。また、IBM Qurantum、Amazon Braket等、ゲート型量子コンピュータの動向についても高い関心を持って臨んだ。
 海外のホテルでの国際会議では普通だが、早朝(8時台)からの開始となった。スポンサーとして、IBM 、D-Wave、nDIVIA等有名どころが名を連ねているためか、参加費は比較的低額に抑えられた。参加者は約1,000名という盛況であった。
 以下に、小生が特に関心を持った幾つかの講演について簡単に記す。この会議では、講演名と講演者のリストがWebの載っているだけで、アブストラクトも予稿も全く掲載されていない。ただ、会場での講演スライドのスマホによる撮影は許容されたので、それも活用し、メモをとりながら聴いていた。
 ある程度詳細にレポートしようかと思ったが、著作権上の問題があるかも知れないので(ファスト映画みたいなことにはならぬだろうが)、タイトルと極く短いコメントに留める。(本記事よりも3倍くらい詳しいレポートも作成してあります。もしも、ご入用であればご連絡ください。)

Welcome to Q2B22 Tokyo -----
 この会議のホストの一つである先進企業QunaSysのTennin Yan(CEO)の挨拶。非常に有益な考察が示されていて感心した。以下のような項目に関してである。
(1)A lesson from classic computer history:2021年12月に東大にIBM Quantum System One実機が導入され話題となった。日本で気象予報のために最初に(1959年)導入されたコンピュータも下図のIBM704マシンだった。当時は、周辺システムもなく、誰がどんな計算をいつ行うか、そのスケジュールも全て、紙と鉛筆によっていた。しかし、そこから、利用のノウハウが蓄積され、そこで仕事をしたり遊んだりしていた人々が羽ばたいて技術を広め発展した。量子コンピュータの場合も、古典コンピュータの黎明期のように、実機を利用することでユースケースを増やし、ノウハウを蓄積して発展して行くのではないか。(2)Impact of real quantum device、(3)Learning from industrial revolution

コヒーレントな量子アニーリング:西森秀稔教授(東工大)
 西森教授は、世界で初めて量子アニーリングを提案した物理系学者。現在の量子コンピュータNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer)は、ノイズ等の問題により、このままでは、「量子の死の谷」(Quantum Chasm)に陥ることが懸念されるとのこと。それをなんとか盛り上げて、誤り耐性量子コンピュータへ発展させるべく、研究開発を進めなければならない。さらに、量子アニーリングの目的、現在の量子アニーリングマシン(D-Wave)の課題と解決の方向(の一つ)、量子アニーリングの基礎研究の急速な発展に関する見解が述べられた。

富士通における量子コンピューティングへの取り組み:佐藤信太郎(同社量子研究所長)
(1)量子ゲート方式の現状と課題、(2)デジタルアニーラを量子インスパイアード技術として先行的に推進、(3)進展中の応用などに関する説明。

InQuanto - A Quantum Computational Chemistry Platform :山本憲太郎(Quantinuum)
 量子化学計算による新材料の開発は、いろいろ適用分野がある中で、最も注目されるものの一つだろう。このQuantinuum社以外にも、三菱ケミカル、JSR Corp.、QunaSys、京都大学などからも、古典的量子化学計算と量子コンピューティングの融合に関して発表があり、注目分野であることを強く認識させられた。

量子コンピュータが導く最適な配送ルート:井手貴範(アイシン)
 物流をテーマに量子コンピュータアプリ(特に量子アニーリング)を紹介した。多数の仕入れ先、数は少ない物流センター、多数の工場、多数の顧客先を結ぶトラックの最適ルートを計画することである。トータルコスを最適化する最適な配送ルート、最適なトラック台数を求める。実例での量子アニーリングの効果が示された。

Evaluating the Potential of Quantum Annealing for your Business Apps:香月諒大(NTTデータ)
 「スポーツの開催スケジューリング」が示された。サッカー試合を、どの開催地でどの組み合わせで、いつ行うかはかなり複雑な問題となる。これを目的関数と制約条件に落とし込む。当然、興行収益を最大化するためだ。D-Waveで極く短時間で適切な解が得られた。

感想
「習うより、慣れろ」というのがある。小生からかなり遠い分野であっても、たくさん聴いているうちに、だんだん「分かった」「判った」「解った」気になってくるから不思議である。小生は、まだ、量子アニーリングの初歩的な応用に取り組んでいるに過ぎないが、今回の参加をきっかけに、シュレーディンガー方程式の(あまり深いレベルではなく)基礎から復習して、ゲート型量子コンピュータの動作原理を把握した上で、IBM QuantumやAmazon Braketなどの環境を次第に深く利用して行こうという気になった。
 以前、小生のブログに、「量子コンピュータは商用化されているが、実用化されているとは言えない」などと勝手なことを書いた。ある面ではそれは間違いではないだろう。しかし、今回、2日間で55件の講演の約6割を実際に会場で聴いてみて、理解がだいぶ深まった気がしている。「実用化されていない」ではなく、「実用化に向けた試行や工夫がまさに盛んに行われており、急速にそのインパクトを与えつつある」と訂正したい。そして、その波は、産業界のみならず、大学のような教育研究機関へも遠くない将来、必ず押し寄せる。量子コンピュータ従事者が、現在のコンピュータのことを勝手に「古典コンピュータ」と呼んでいることもそれを示唆するように思われる。

続編このレポートを書いた翌日に、印象に残った講演がまだ他にあったことを思い出し、こちらに追記しました。

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