2023年5月14日日曜日

量子力学計算に基づいて偏光板を模擬するスマホアプリ

[要旨] 偏光板の重ね合わせで起こる不思議な現象は、量子コンピューティングの数学モデルによって、すでに説明がついている。→こちら→こちらにその記事を書いた。今回の記事では、その原理に基づいて開発したスマホアプリ(with MIT App Inventor)について述べる。実物の偏光板で行ったのとほぼ完全に同じ結果を得ることができた。

その後の改訂版はこちらです。

スマホアプリの概要
 今回のスマホアプリの外観は図1のようである。動作原理は、既報と同じなので詳細は略す。要点は、ある偏光板に到達した光子の偏光角度がθで、その偏光板の軸角度がαである場合、光子がそこを通過する確率を計算できることである。αとθが等しい場合は通過確率 = 1.0、両者が直交する場合は通過確率 = 0.0 となる。
 スマホ画面での見え方は、偏光板に相当する円盤の塗りの透明度を、その通過確率を適用して調整すれば良いのである。実際の偏光板は正方形が多いが、ここでは、回転処理を簡単にするため円形を用いた。その円盤の回転を明示するため、スライダーを用いて、中心から円周に至る1本の直線を回転させた。 
 なお、最初の偏光板1に到達する光子の偏光角度は全くランダムなのであるが、ここではそれを何らかのフィルターを通して、ある偏光角度になっていると仮定する。一例として、偏光板1に到達する光子はデフォルトでは45°に偏光しているが、ランダムな角度に設定することもできる。


スマホアプリの実行例

 3枚の偏光板を使う操作例を図2に示す。以下の手順で観察する。
  1. 画像に1枚目の偏光板を置くため、偏光板1にチェックをつける。軸角度は0°になっており、この方向に偏光した光子だけが通過するので少し暗くなる。(上記仮定から、光子の通過確率は0.5となるためである。)
  2. 次に、一番手前の偏光板3にもチェックをつけて、偏光板3を重ねた状態にする。偏光板3のスライダーを右へ動かすと段々暗くなる。軸角度90°では光子は全く通らなくなり、真っ暗になってしまう。
  3. さらに、偏光板1と偏光板3の間に入れる偏光板2にもチェックをつける。そして、その偏光板2のスライダーを右へ動すと段々見えてくる。軸角度45°の時が一番よく見える!この場合、偏光板1を通過した光子が偏光板3も通過する確率は、下図右側の通り、0.25となり、ある程度が画像が見えてくる。

 この操作例はYoutubeビデオとしてここに公開しているので、ご覧いただきたい。

感 想
 光子がどのように種々の軸角度の偏光板を通過するか(あるいは吸収されるか)は、量子力学計算で明らかにできる。それを、これまでに、机上計算、IBM Quantum実機、今回のスマホアプリの3通りで実現できた。量子コンピューティングの最も基本的な概念の一部の理解を深めるのに非常に有効だと感じた。

 今回のアプリは、MIT App Inventorを用いて、着想から半日程度で実装することができた。(ただし、ユーザインタフェースはその後も手直しはした。)この経験から、「実感する科学」「身の回りの数学」「セミナー」などの題材検討にご参考になれば幸いである。

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