●渋滞解消のための信号制御最適化
この課題は、古くから取り組まれています。車の自動運転技術も注目されていますが、今のところ、交通渋滞解消を目指すものではないでしょう。しかし、交通渋滞解消の技術は注目されるべきものです。それによる現代社会での経済的、社会的効果は計り知れません。
従来は、車の台数や速度、車間距離、青信号の点灯時間と切り替えタイミング、交差点での進行方向等々を時間変化で捉えて微分方程式モデルを作り解くこともあるようです。しかし、今回の手法は、そういう要素を明示的に使わずに、「交差点をつなぐ道の上にいる車の量」を「青信号の点灯」と関連付けた画期的なモデルだと思われます。参考文献[2]の豊田中央研究所と東大による論文に基づいているとのことです。
●量子アニーリングによる信号制御最適化
詳細は参考文献[1] [2]をご覧いただきたい。非常に丁寧な解説が[1]にあります。「各交差点で待機している垂直方向や水平方向の車の台数を信号制御によって均一化する」という観点から、イジングモデルを組み立てる考え方と具体的な手順が説明されています。もちろん、交差点に入る車の直進、右折、左折の割合や時間変化も考慮されています。そして最終的に、各交差点を量子のスピンに対応させて、スピン間の相互作用係数と外部磁場係数を使ったエネルギー関数(コスト関数)を導いています。
私が気にしていたのは、いくつかの制約条件をどのようにコスト関数に組み入れるのか、でしたが、例えば、隣り合う信号が相反する場合にペナルティを与えることなどをうまく取り入れています。
●実際に動かして試してみよう
原理的なことを一通り理解した上で、日立のCMOSアニーリングマシンを動かして、動きを確かめます。Pythonソースコードが公開されていますので、誰でもできます。ただし、日立から、無料のAnnealing Cloud Web用のAPIキーを取得する必要があります。
動かしてみると、なかなか素晴らしい!解説も分かりやすいのでとても勉強になります。各信号は量子スピンに対応するので、アニーリングの結果として、エネルギー関数を最小化するスピンの向き(北極、南極)のセットが返ってきます。すなわち、その時点では、北極ならその信号器の水平方向を青色に、南極なら垂直方向を青色にするのが最適だ、ということです。
ただ、最適化の結果を見やすくしたい。とうことで、信号の青点灯と交差点での渋滞の度合いを可視化するアニメーションアプリを作成しました。図1にそれを示します。
●感想
色々なことが思い浮かぶのですが、この結果をみると、初期状態でかなり渋滞していても、この最適化で、青信号の点灯方向が変わり、急速に渋滞が解消に向かうことがわかります。その後は、信号の切り替えは穏やかになり、渋滞は徐々に減少します。もちろん、初期状態での車の量や、交差点での直進、右折、左折の割合などで状況は変わるでしよう。また、どこかのスピンが故障して、ある確率で方向が反転してしまう場合に、最適性はどのように失われるのでしょうか。(パリティチェックみたいな機構が付いているのかもしれませんが。)今回のこの解説は、今後、種々のアイディアを独自に試す場合の非常に重要な拠り所になりそうです。
参考文献
[1] CMOS Annealing Cloud Web News
[2] Daisuke Inoue, Akihisa Okada, Tadayoshi Matsumori, Kazuyuki Aihara, Hiroaki Yoshida: "Traffic Signal Optimization on a Square Lattice with Quantum Annealing"
[Submitted on 17 Mar 2020 (v1), last revised 1 Feb 2021 (this version, v2)]
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