2026年8月9日日曜日

量子振幅推定QAE (Quantum Amplitude Estimation)の性能

 量子振幅推定QAE (Quantum Amplitude Estimation)は、量子的方法が古典的方法よりも優位である可能性を示す一例です。金融のリスク評価など、実用的にも非常に重要とされています。標準的なQAEでは、理論通り、求める確率のエラーが、オラクル呼び出し回数Nに対して、1/Nに(1/√Nではなく)減少することをシミュレーションで確認しました。ノイズに強い改良型のQAEを用いた、量子コンピュータ実機での実行は今後の課題ですが。

🟢どのような問題?
 具体例を図1に示します。中央のブロッホ球面に一つ量子状態が示されています。これは、北極状態に対して、右側に示すように、2つの量子ゲートRy(60°)とRz(15°)を適用した結果です。そのため、これを測定した場合、|0>になる確率は0.75、|1>になる確率は0.25と算出できます。では、この量子状態がどのように設定されたかが不明な場合、|1>となる確率を求めたい、という問題です。以下の2つの方法を比較します。

🟢Standard Sampling(モンテカルロ法)
 これは通常の方法です。多数回のサンプリングによって確率を求めます。誤差をε以下にするには、1/ε回のサンプリングが必要なことが分かっています。例えば、ε=0.01以下にしたい場合、10000回サンプリングが必要です。

🟢QAE (Quantum Amplitude Estimation )
 上記モンテカルロ法よりも、圧倒的に少ない測定回数で精度よく振幅推定する方法です。QAEは、Groverの探索と同様の構成と量子位相推定(QPE)を組み合わせた方法であり、内部で、「位相の増幅」を含むモジュール(ここではこれをOracleと呼ぶ)を呼び出します。誤差をε以下にするには、1/ε回のOracleの呼び出しで済みます。例えば、ε=0.01なら、100回となります。なお、Oracleの呼び出し回数は、QAE内部の評価量子ビットの個数に応じて最適に決められます。

🟢シミュレーションによる両者の性能の比較
 図2に、両者の誤差減少の模様をプロットしました。ここで、横軸に注意いただきたい。Standard Samplingの場合は、回数Nは、サンプリング(shot)回数です。一方、QAEの場合は、回数Nは上記に述べたOracleの呼び出し回数です。両者とも、回数Nの増加に対する誤差の減少は、理論値とかなりよく合致することがわかりました。QAEの優れた特性が確認できました。

 実時間の比較で、どちらの方法が短時間で正答できるかを言うことは困難です。つまり、QAEの実装回路を実行する量子コンピュータ実機の性能、特にノイズによるエラーの影響を考慮する必要があるからです。そこで、理論的な性能指標として、Oracleの呼び出し回数を用いるのが通例です。今回もそれを用いた次第です。今回はシミュレーションでの比較でした。量子コンピュータ実機での比較は今後の課題です。現在、ノイズに強い改良型QAEの研究開発も進められていますので。