2024年9月12日木曜日

量子もつれ(entanglement)を体感できそうなゲーム

【要旨】量子コンピューティングで最も重要な原理の一つは、量子もつれ entanglementである。図1に示す通り、科学雑誌Newtonの最新号にも30頁の解説がある。その量子もつれを体感できそうな簡単なゲームアプリを作成し、自作のモバイル量子回路シミュレータと、IBM Quantum実機で実行した。その結果を検討した。

🔴 Tiny Mermin-Peres Magic Game
 量子もつれを利用するゲームとして有名なMermin-Peres Magic Squareというのがある。ここでは、そのエッセンスを抜き出して、独自の簡単なゲームとした。そのため、先頭にTinyを付した。そのTinyゲームを図2に示す。

 登場人物は、Alice、Bob、Refereeの三人である。AliceとBobはそれぞれ図2に示した四つの3ビットのstringを持つ。(1)Aliceは所有する3ビットstringの一つをランダムに選んでRefereeへ送る。ただし、その情報をBobへ伝えることは禁止。(2)Bobは、Refereeから「成功」と言われるようにするため、自分の3ビットstringのどれかをRefereeへ送る。(3)Refereeは、両者から送られてきたstringの右端のビットを比較し、それらが同一ならば「成功」、異なれば「失敗」を宣言する。

 例えば、Aliceが#1を、Bobが#2を送信した場合は、両者の右端ビットが同一なので「成功」だが、Aliceが#1を、Bobが#4を送信した場合は「失敗」となる。

 AliceとBobにとって、「必ず成功」となる戦略はあるのか?古典的方法では、それは無いと言えるだろう。なぜなら、Aliceがどの3ビットstringを送信したかを、Bobは知らないからである。

 ところが、量子コンピュータを使う(量子もつれを使う)と、「必ず成功」する仕組みを作ることができるのである!

🔴 量子もつれに基づく「必ず成功する」戦略
 「量子もつれ」とは何か、また、その回路図の意味は何かの説明は略す。それをご存知ない方にも、「こんなやり方もあるのか」ということを感じていただければ十分である。

 図3にその戦略を示した。まず、AliceとBobはそれぞれ3ビットstringを持つとしたが、ここでは2量子ビットづつしか持たない。それは、図2の「ビット列の特性」に示した通り、Aliceの3ビットの和は偶数であり、Bobのそれは奇数であることによる。すなわち、最初の2ビットが決まれば、右端のビットは自動的に決まってしまうからである。

 図3の量子回路では、ゲーム開始前の準備として、AliceとBobの量子ビットに「量子もつれ」を生じさせている。しかし、ゲーム開始後には、何らの"通信"も行っていないように見える。ところがRefereeは、AlcieとBobから送られてきた結果から、必ず、「成功」の判断を下すのである!

🔴 自作モバイル量子回路シミュレータによる確認
 上記の戦略の妥当性を、自作シミュレータで確認した結果を図4に示す。右側に、赤い小さな円が8個ある。これは、AliceとBobの量子ビット4つの測定結果から、8つの「成功」のパタンが、それぞれ1/8の確率で発生することを意味している。「失敗」が起こる確率はゼロである。

 一例として、最初の赤丸に対応する0001は、Aliceが000を、Bobが010をRefereeに送ったことを意味する。両者の右端ビットは共に0なので、確かに「成功」である。他の七つのケースも、同様に、全て「成功」であることが分かる。
 以上のことから、BobはAliceが何を送ったのかを知らないのに、常に「成功」となるstringをRefereeへ送ることができている。すなわち、Bobが測定を行うと、その結果として、必ず「成功」となるstringをRefereeへ送ることができる。不思議さは消えないかもしれないが、これが量子もつれの効果である。

🔴 IBM Quantum実機による確認
 上記は、量子回路シミュレータの結果である。次に、本物の量子もつれを起こす、量子コンピュータ実機ではどうなるのかを確かめた。図5は、そのための量子回路の準備である。記述法は異なるが、実質的には、図4に示したものと等価である。
 この量子回路を、IBM Quantum実機で実行した結果が図6である。10,000ショットにおける、AliceとBobの測定結果のパタンの出現頻度を示している。赤枠で囲んだパタンは、図4の赤丸と対応している。すなわち、「成功」となるパタン8つが高い頻度で出現している。つまり、86%は「成功」となるパタンである。一方では、実機のノイズ等ため、一部の量子もつれの消失などにより、14%は「失敗」となった。現在、一般公開されている量子コンピュータではこの程度の誤差が生ずる場合がある。

🔴 まとめと感想
 ここに述べた、Tiny Mermin-Peresというゲームは、古典的方法では、「100%成功」する戦略は存在しない。しかし、量子もつれを利用すると、不思議なことに、「100%成功」する戦略を作ることができる。量子回路シミュレータではそれを確認することができた。一方、本物の「量子もつれ」が使われる量子コンピュータ実機(現在一般公開されているもの)では、ノイズによるエラーのため、「86%程度の確率で成功」するという結果となった。それでも、古典コンピュータでは不可能なことが、高い確率で実現できるという好例を与えている。素晴らしいことである。今後、量子コンピュータは急速に進展する気配なので、この86%は次第に100%に近づくであろう。

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