2023年4月28日金曜日

"Quantum Computing for Everyone" 再訪1-測定と基底

[要旨]数ヶ月前に、"Quantum Computing for Everyone" by Prof. Chris Bernhardtを、最後まで読み終えた。だが、そのままにしておくと記憶が薄れてしまうので、再度最初から学び直し、頭に定着させることにした。前回見落としていたこと、新たに分かったことも出てきた。名著であることを再認識している。本記事では、(量子もつれの前段の)電子のスピン、光子の偏光、量子ビット、順序付き正規直交基底、重ね合わせ、測定の考え方等を、独自のイラスト中心にまとめて復習とした。(続編も書く予定である。)

その後[補足1][補足2]][補足3]説明を追加した。2023-05-01

Quantum Clock
 これは、全くヘンテコな時計だ。見ることも、何時かを聞くこともできない。できるのは、例えば、"12時ですか?”のように問うことだけである。その答えは、"はい、12時です"、または、"いいえ、6時です”のいずれかになる。Fig.1で簡単に説明する。"12時ですか?”の答えが来た後に、再度同じ質問をすれば、全く同じ答えが返ってくる。すなわち、2回とも、"はい、12時です"、となるか又は2回とも、"いいえ、6時です”のいずれかとなる。だが、2回目の質問を、"3時ですか?”に変えると、その答えは、"はい、3時です"、か又は、"いいえ、9時です”のいずれかになる。
 この量子時計なるもの、何かの役に立つのか?Yesなのである。この後に示す「電子のスピン」や「光子の偏光」を測定する場合と全く同じなのである。すなわち、"XX時ですか?" は、量子をXX方向で測定することに相当するのである。

電子のスピンの測定(measuring spin of electrons)
 古典ビットには、"測定"という概念はない。だが、量子ビット(qubit)は、測定することによってはじめてその値が決まる。有名なStern-Gerlachの実験を模倣した、電子のspinの測定イメージをFig.2に示す。測定装置(apparatus)の向きが重要であることを示したものだ。
 この状況を説明する数学モデルをFig.3に示す。図は連続して計測するケースだが、その向きが異なる場合を説明している。測定器の向きとそれに対応する順序付き正規直交基底(ordered othonormal bases)の関係は、量子コンピューティングのおける最も重要な基本事項の一つであろう。

光子の偏光の測定(measuring polarization of photons)
 光子の偏光を測定する場合、上記のStern-Gerlachでの磁石を用いた測定器に相当するのが偏光板(polarizing filter)である。特に注目に値するのは、Fig.4の(b)の2枚の偏光板(0°と90°の)の場合よりも、(c)の3枚偏光板の方がより多くの光を通すことだ。通常のフィルタの常識とは逆の結果なのである。
 Fig.4の状況も、Fig.5に示す数学モデルで明快になるのである。この場合も、偏光板(Polarizer)の向きに対応する順序付き正規直交基底で説明できる。


補足1(偏光板の軸の傾きと順序付き正規直交基底)
 例えば蛍光灯からは、毎秒10の20乗個の光子(光の最小単位)が放出される。光子ひとつづつが、それぞれランダムな方向に波打って進む。その波の傾きが、偏光板(フィルタ)の軸の傾きと一致すれば、その光子は偏光板を確実に通過する。一方、両者の傾きが直交する場合は、光子は通過できず確実に吸収される。では、それ以外の傾きの光子はどうなるのか?それを説明するのが、上記Fig.5なのである。偏光板の軸の傾きに対応した、順序付き正規直交基底(以後、単に基底と呼ぶ)は以下のようになる。その導出計算はここでは略す。
 基底の1番目のケットベクトルは偏光板の軸の傾きに対応し、2番目のケットベクトルは偏光板の軸に垂直な傾きに対応する。偏光板に向かってくる光子は、これら2つのケットベクトルの線形結合になっていると考える。そして、偏光板で見る(光子を計測する)時、光子が偏光板を通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗となる。通過しない確率は2番目のケットベクトルの係数の2乗となる。これら2つの確率の和は1.0となる。これが要点である。

 例えば、Fig.4とFig.5の(c)のケースでは、1枚目の偏光板を通過した光子は全て、基底Aの1番目のケットベクトルになっている。それを2枚目の偏光板で測定する場合には、光子は基底Bの2つのケットベクトルの線形結合となる。したがって、基底Bでの測定で光子が通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗、すなわち、0.5になる。3枚目の偏光板についても同様である。結論として、1枚目の偏光板を通過した光子が3枚目まで通過する確率は0.5x0.5=0.25となる。したがって、(c)の図のようにある程度の明るさでものが見えるのである。

補足2(追加実験)
 最後に、念のためFig.6に示す追加実験を行った。つまり、Fig.4 (c)の実験で使った3番目の偏光板の向きを、2番目と同じく45度に揃えた。すると、順序付き正規直交基底が2番目と3番目の偏光板とで同一になる。そのため、1番目の偏光板を通過した光子の半数が2番目の偏光板を通過し、それらの光子が全て3番目の偏光板をそのまま通過したのである。その結果、(d)に示す通り、(c)の場合よりも明るく見えることが確認できた。

補足3(過去のブログ記事)
 本件に関しては、過去に同様の記事(こちら)を書いた。武田俊太郎氏の解説に基づいたものである。今回の記事は、数学的にやや厳密になっている。

 さらなる詳細は、Prof. Bernhardtの書をご覧いただきたい。緻密でわかりやすい叙述のおかげで、一定の持続力があれば、上記3件の"測定"を十分に理解できるはずである。なお、Fig.1〜Fig.6は本書には掲載されていない。いずれも、小生の理解を明確にするために自作したものである。

2023年4月11日火曜日

App Inventor FoundationのNatalie Lao, Ph.D.との対談

This visit and conversation is featured on the App Inventor Foundation news site (here)!
It is also introduced on the official Facebook , Instagram and Twitter.
 2023年4月7日(金)に、App Inventor FoundationのExecutive DirectorであるNatalie Lao, Ph.D.が、 Dr. Nicholas Kwokとともに神奈川工科大学を訪問され、小生(山本富士男)、田中博教授(情報工学科)、鷹野教授(情報工学科・国際センター所長)と対談いたしました。また、田中(博)研究室では須藤康裕准教授(情報工学科)も加わり、MIT App Inventorなどを利用して開発したデモ説明を実施いたしました。


対談の詳細は、下記の神奈川工科大学ニュース(KAITニュース)をご覧ください。


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ところで、KAITニュースには載せていない当日のデモ模様から
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(1)ソーラーカーレースのリアルタイムモニタ
彼女はこれに大変興味を示し、「スクリーンをビデオに撮りたいのでもう一度デモして」と言ったのでそうしました。以下のビデオは彼女が撮影したもの。(実際のものより解像度を落としてあります。)

(2)量子アニーリングのスマホアプリ
他にもいくつか、デモしたのですが、このアプリ(ライブデモ)もちょっと盛り上がりました!
オーノー、something wrong! がこちら。
トライアゲン... Good, good!、がこちら。
私の4Gスマホ(5Gは持っていません!)と日立CMOS Annealingマシンとの交信です。Elapsed timeはちょっと長かったのですが、実アニーリング時間は72msほどでした。このアプリでは、各画素とその隣接8方向の画素を用いてエネルギー関数(コスト関数)を構成します。それをスマホでやるので、少し重い処理になります。

(3)ゲート型量子コンピューティングのApp Inventorチュートリアル
まだ、構想段階だが、ゲート型量子コンピューティングのチュートリアル的アプリをApp Inventorで作りたい。ということも話しました。先方も、何らかの形で、IBMのQuantumマシンを使っているとのことでした。マスコットとしての、私の自作ブロッホ球を机の上に置いて披露しました!ちょっとはウケたような。

2023年4月6日木曜日

MIT Pressからの出版書籍に本ブログ記事が紹介された

 MIT Pressから最近出版された以下の書籍に、当方のブログ記事が引用されていることを(ある米国人から)教えて戴きました。滅多に無いことなので、記録しておきます。

"Code for What?", The MIT Press [2022]
 この書籍の著者は、Prof. Clifford Lee (Northeastern Univ.)とMs. Elisabeth Soep (YR Media) です。ハードカバーの少し厚い本(全300頁)です。そのChapter 8, p.230で、下図のように紹介されていました。

紹介されている箇所
引用された2件のブログ記事

 引用されていたのは、下記の2件です。#14は英語で書いたのですが、#15は日本語です。日本語でも、恐らく、機械翻訳で読んで戴いたのだと思います。ちょっと、嬉しくなりました。
 簡潔な日本語で論理をしっかり書くことを心がけていますが、あまり自信はありません。もしも、本当にそうなっていれば、機械翻訳の精度も高まるはずです。

#14
https://sparse-dense.blogspot.com/2021/03/using-mit-app-inventor-faceextension.html
#15
https://sparse-dense.blogspot.com/2021/01/awesome-dancing-with-ai-tutorial.html

2023年3月25日土曜日

20年前の論文に掲載されていた量子コインゲーム

[要旨] 量子コンピューティングの解説ビデオは多数ありますが、最近、Youtubeで "A beginner's guide to quantum computing" を視聴しましたので、その私の理解を書きます。IBMShohini Ghose氏による、10分程の英語の分かりやすい解説です。量子コンピュータとは何か、それがどんなインパクトを与えるかも簡潔に述べられていますが、特に量子重ね合わせ (superposition)を、コインゲームで解説しているのが特徴です。最後に書きましたが、私の自作ブロッホ球も役立った!


簡単なコインゲーム(従来コンピュータ版
 ルールは以下のように簡単です。(コンピュータ)と(あなた)が交互に操作します。(このゲームの由来は[補足2]をご覧ください。)
  1. まず、 コインを表にする。以下の操作を行う。
  2. Qは、裏返すか否かのどちらかを行う。Pにはその結果は分からない。
  3. Pは、裏返すか否かのどちらかを行う。Qにはその結果は分からない。
  4. Qは、裏返すか否かのどちらかを行う。Pにはその結果は分からない。
  5. コインの状態を見る。表ならばQの勝ち、裏ならばPが勝ちとなる。
 この手順を、図2に示します。コンピュータQが勝つ確率が50%であることは明らかです。ちょっと退屈なゲームですが、これは次節への準備です。
簡単なコインゲーム(量子コンピュータ版
 次に、このゲームを量子コンピュータで行います。ルールは上記と基本的に同じです。とはいえ、従来コンピュータとは全く異なる世界になるので、使うコインも従来のコインではなく、量子コインです!以下のようなルールになります。
  1. まず、量子コインを表(すなわち、 |0>)として、以下の操作を行う。
  2. 量子コンピュータQは、ユニタリ演算を実行する。Pにはその結果は分からない。
  3. Pは、裏返す(Flip)か否かのどちらかを行う。Qにはその結果は分からない。
  4. Qは、ユニタリ演算を実行する。Pにはその結果は分からない。
  5. 量子コインをZ基底で測定して、 |0> ならQの勝ち、 |1> ならPの勝ちとなる。
 ここで、QとPではやることが違うんじゃないの?という疑問が湧くかも知れません。確かにそのようにも見えますが、ここでのルールは、Qは量子コンピュータなのですから、Qは「量子的」に裏返し(Flip)、あなたPは古典的に裏返す(Flip)ということなのです。この手順を、図3に示します。実は、コンピュータQが勝つ確率は、100%になります!
量子コンピュータがなぜ、必ず勝てるのか?
 量子コンピュータが必ず勝つ理由は、このビデオで簡単に以下のように口述されてはいます。

During the game, the quantum computer creates this fluid combination of head and tails, zero and one, so that no matter what the player does, flip or no flip, the superposition remains intact. But in its final move, the quantum computer can unmix the zero and one, perfectly recovering heads so that you lose every time.

 でも、多くの人は腑に落ちないでしょう!その答えは、量子回路を具体的に作ってみれば分かります。図4がそれです。上記に示した、量子コンピュータQが行うユニタリ演算は、ここではHadamard変換(H)としています。一方、Pが量子コインを反転させる場合はビット反転を意味するPauli X(+)を、反転させない場合はIdentity(I)を適用します。
 この量子回路をIBM Quantum実機で1024回実行した結果が図5です。いずれの場合も量子コンピュータが常に勝ちました!ただし、本来は100%であるはずが、1%〜2%負けているのは、量子コンピュータの誤作動によるものです。(現状の量子コンピュータはそうなります。)
 さて、図5のように量子コンピュータQが常勝した理由は、Qが2回Hadamard変換Hを行なっていることにあります。初期状態は|0>ですから、Qが最初にHを行った後の量子状態ベクトルは、X軸正方向と赤道の交点を指しています。そこでPがビット反転(+)を行なっても、量子ベクトル状態に変化が生じません。なぜなら、このビット反転操作は、X軸まわりに量子ビットをπだけ回転さえる操作になるからです。その後、Qは再度Hを実施するので、量子状態は|0>に戻ってしまいます。その状態で測定する(量子コインを見る)のですからQの勝ちとなるのです。

 以上で説明を終わるのですが、さらに、Qni量子回路シミュレータでも確認したいと思います。図6がそれですが、QとPが行う各操作毎に、量子状態ベクトルがどうなっているかを示しているので、分かりやすいと思います。
 さらにもう一つ。このコインゲームの操作は、単一ブロッホ球面でのHadamardゲートとPauli Xゲートの適用となるので、直感的にとても分かりやすくなります。図7でそれをご覧ください。自作ブロッホ球がこんなところで役立った!

[補足1]
 量子状態が|0>であるならば、Pは、Pauli Xによる裏返し操作で、コインの裏側を意味する|1>へ移行させることができます。その逆方向も然りです。しかしながら、Qは、Pの手番になる前にHadamardを実行(重ね合わせ状態へ推移)しているので、コインは反転しません。ともかく、ここでは厳密な意味での対戦というよりも、量子重ね合わせを説明する例題と考えた方が良いと思います。
[補足2]
 後で分かったのですが、このコインゲームは、D.A. Meyerという人の1999年の論文に示されているとのことです。それはペニーフリップゲームと名づけられており、初期の量子コンピューティングの研究成果のようです。単に、単純なゲームのように見えますが、深い洞察が含まれているようです。私の上記の理解と合致しているか否かは自信がありません。今から20年以上も前にすでにそのような研究が行われていたことは驚きです。

2023年3月5日日曜日

趣味のブロッホ球マスコットを振り返る

 これはもう趣味の工作にすぎません。量子コンピューティングを学ぶ上で、量子状態ベクトルをイメージできるマスコットが欲しい、ということでブロッホ球モデルを作ってきました。これまでにも、このブログの記事に何度か出現しましたが、改めて振り返ります。以下の、初期バージョン(a)から出発して、最新バージョン(d)に至りました!

 そもそもなぜ、ブロッホ球を手作りしたいの?例えば、IBM Quantum Labを使えばPythonプログラムで自由に、以下のように綺麗に描けるじゃないですか。あるいは、Qni量子回路シミュレータも使えますよ。
 でも違うんですね。以下のように物理的なものを手作りして手に持って眺めてながら量子ビットを思うと、これがとてもいいんです。最初のバージョン(a)は、ピンポン球に北極と任意の量子状態ベクトル(のつもり)を描いただけの単純なものでした。ちょっと(かなり)物足りないですね。
 ということで、バージョン(b)では、いきなり大幅バージョンアップしました。まず、右型のブロッホ球では、透明プラスチック球の中に、位相Φと確率振幅θ付きの量子ベクトル|ψ>を示す1/4円板を組み込みました。さらに、左側のブロッホ球には、アダマール変換で北極が赤道へ行く円板を内部に取り付けました。
 これでいいかなあ、と思ったのですが、2つのブロッホ球じゃなく、一つのブロッホ球にした方がいいだろう、と思ってバージョン(c)を作りました。ちょっと見えにくいのですが、球面に3つのアダマール変換のパスを描くのに少し手こずりましたが、昔使っていた製図用のディバイダーが役立ちました。北極→x軸正方向の赤道点、南極→x軸負方向の赤道点、y軸正方向の赤道点→y軸負方向の赤道点への3つの円を球面に描きました。
 最後にバージョン(d)です。ちょうど良いサイズのフイギュア・ディスプレイケースをAmazonnで見つけて購入。これに格納してみると、なんだか記念碑的ブロッホ球となりました!

2023年3月4日土曜日

MIT Technology Review(日本語版)に載った量子時代の展望

 MIT Technology Reviewという雑誌は聞いたことはありますが、今回初めてその日本語版を購入してみました。というのも、質の高そうな「量子時代のコンピューティング」という特集があったからです。雑誌自体の装丁、デザイン、紙質なども高級感溢れるものです。定価は2,200円です。
 緻密な文章構成で、注目すべきタイトルの多数の寄稿が見られます。私が、特に関心を持って読み、大いに力づけらた以下のような記事が含まれています。

中村泰信(理研 量子コンピュータ研究センター長)への特別インタビュー
「超伝導量子ビットの生みの親が語る量子コンピュータの研究の未来」
 私の勝手な感想:
 聞き手が、「日本は量子コンピュータの分野で米国、欧州、中国の後塵を拝しているが、...」で始まる問いに丁寧に回答されています。その中で、浮き足立つことなく「動作原理からして、何でもかんでも量子コンピュータが有利という訳ではない」と冷静に解説されているのが印象的です。もちろん、その上で強い研究開発への思いを語られています。

グーグル vs. IBM
「量子コンピュータ開発の熾烈な覇権争い」

サンダー・ビチャイ(Google CEO)への独占インタビュー
「Googleはなぜ量子コンピュータに投資するのか?」

暗号が破られる日に備えよ
「耐量子アルゴリズムの必然性」

量子技術集団Qunasysが巨大企業から注目される理由

2023年3月3日金曜日

黒橋禎夫教授のChatGPTに関する解説

私とChat GPTとの会話の実例(単なるウオーミングアップです)
↓ここからが本論です:

 ChatGPTが世間的に物凄い勢いで話題になっているようです。では、自然言語処理やAIの著名な研究者はこれをどう見ているのかな?と思っていましたら、まさにそれを聞ける絶好の機会が本日ありました!(ご存じかもしれませんが...)

 本日(2023-03-03)の10:30からのNII(国立情報学研究所)のサイバーシンポジウムにて、自然言語処理の重鎮であり、次期NII所長となられる黒橋禎夫 京都大学教授のChatGPTに関する解説がありました。内部の仕組みも含めて、とても分かりやすく、参考になりました。これはなかなか聞けない情報だと感じましたので、記録しておきます。30分ほどの講演で、スライド57枚も公開されました。いつまで公開Youtubeで見られるのかは分かりませんが。

「ChatGPTの仕組みと社会へのインパクト」黒橋禎夫 京都大学教授

 私が講演を要約することはとてもできませんが、以下の点が印象に残りました。黒橋教授ご自身も、この講演のタイトルと要約文の作成に、ChatGPTを利用してみて有用だったとのことです。これには驚きました。

(1)ChatGPTの仕組みは、ニューラル翻訳→Attention→Transformer→GPTの流れで発展してきた言語モデルであり、技術的にはすでに周知のものであり、特に驚くものではない。

(2)だが、GPT3(2020)頃から、強化学習による訓練と膨大なコーパスにより、急速に自然な会話的なやりとりとなってきた。

(3)信頼できるか?について:答えがわからなくても、「それは知りません」と言わずに、言語モデルが勢いで何かを言ってしまう場合がある。コーパスに嘘があれば当然、それはある程度再現される。

(4)ChatGPTをとり入れた最新のBingでは、回答のエビデンスを示すリファレンスを示すようになってきた。人間がそれを見て、どう使うかを判断することになろう。

(5)教育での利用は制限すべきか?については:電卓や機械翻訳の利用と同様に、学習の初期では一定の制限が必要だが、ある段階からは、積極的に利用して批判的に思考を身につけることが重要。学生の利用を制限することはできないし、そうすることが正しいとは思わない。

(6)日本語は欧米語に比べてあまり学習されていないはずだが、その割には、日本語もよく回答している。だが、良質な大規模日本語コーパスで学習した言語モデルを、日本自身が持つべきである。

(7)今回のことは、人間とAIの本格的な共存の始まりと考えるべきだろう。

[最後に私自身の感想]
 特に、大学でのプログラミング演習問題の出題に大きな影響を与えそうだ。現状の、1年生や2年生に出されているプログラム作成課題は、概ねChatGPTが回答してくれるのではないか。今後数ヶ月後には、さらに進歩しているはずだ。標準的な回答が得られた後も、「この部分を関数にして」とか「...という処理を再帰的関数にして」とか、「C言語じゃなくPythonにして」などという求めにも楽に答えるだろう。上記項目(5)をよく検討する必要が出てきそうである。

2023年2月22日水曜日

驚異でもあり脅威でもあるChat GPTを使ってみた

 話題のChat GPTを、試してみました。以下の例1、例2、例3に関しては、知識人の回答の如くで、素晴らしい!だが待て。必ずどこかで間違った事項が含まれる場合があるだろう。間違い(または的外れ)があっても、自信を持って、流暢に答えてくるところが恐ろしい。それを知らずに信じて利用しそうである。GPTに悪意は無いのだろうが、そこが脅威なのである。だが、とりあえず、以下の例を楽しもう!!!

●【例1】自分が書いた以下のような10行程度の文章を使って、Q & Aを試してみました。その結果は、驚異の一言です。以下の連続チャットQ1→A1→Q2→A2、何とも言えません。誰か人間と対話しているみたいにも感じられます。
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私の質問(Q1): 以下の文章で作者は、なぜオオワシを登場させたのでしょうか?
「現在、機械学習、AI、IoT に関するリテラシー及び専 門的な技術教育はどの大学でも定着している。一方、不 気味に迫ってくるものを感じ取っている大学関係者も多 いであろう。それこそが「量子コンピューティング」な のである。オオワシの幼鳥が既に巣立ちを向えて羽ばた き始めているが如くである。気になっていても、どう着 手すればよいのかは悩むところである。だが、量子コン ピューティングは、そう遠くないうちに雪崩の如く押し 寄せるに違いない。早めの準備が必要であろう。政府の量子未来社会ビジョンにも、今後の量子技術の 重要性が謳われている。政府は量子技術に関するサービ スの利用者を 2030 年に 1000 万人とする目標を掲げてい て、ことしは実用化に向けた動きが加速する勢いである。 その中核は、量子コンピューティングであろう。今言わ れている IT 技術の次に注目されるのは量子コンピューテ ィングであることはほぼ間違いないであろう。大学教育おいて、すでにその取り組みを進めていると ころも増えてきた。量子コンピューティングというもの を、どのように学び教えるかについて考察する。筆者が これまでに行ってきた、量子アニーリング型とゲート型 の量子コンピューティングへの取り組みに基づいた見解 も示したい。」

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Chat GPTの答え(A1):この文章において、作者がオオワシを登場させた理由は、量子コンピューティングが不気味で迫ってくる存在であることを示すためであると考えられます。オオワシは、幼鳥が巣立ちを始め、羽ばたき始めるという比喩的な表現に用いられています。同様に、量子コンピューティングも既に実用化に向けた動きが加速しており、今後さらに急速に普及していくことが予想されているため、大学関係者や学生たちは早急に準備する必要があるというメッセージを伝えるために、オオワシの比喩が使われたのでしょう。

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私の質問(Q2):オオワシではなく、スズメではダメなのでしょうか?

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Chat GPTの答え(A2):文章の文脈からは、オオワシが登場することで強調されるべき重要なことがあるという意図が感じられます。つまり、オオワシはその力強いイメージから、近い将来押し寄せる量子コンピューティングの重要性を表現するために選ばれたのでしょう。スズメでも同様の意図があるかどうかは分かりませんが、オオワシのイメージが持つ強さや迫力は、文脈に合っていると思われます。
実際のQ &Aの画面

●【例2】さらに、別のやさしい基本的な技術的質問をしてみました。こちらの連続チャット、Q1→A1→Q2→A2もまともです。結果だけでなく、(求めてもいないのに)計算が解説付きで正確に示されています。もっと驚きは、Q2での「|1>についてはどうですか」という質問(何を問われているのか)を的確に捉えていることです!
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私の質問(Q1): 量子状態 |0> にアダマール変換を施し、さらにもう一度アダマール変換を行い、測定するとどうなりますか?

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Chat GPTの答え(A1):量子状態 |0> にアダマール変換を施すと、以下のようになります。
H|0> = (1/√2) |0> + (1/√2) |1>
次に、この状態に再度アダマール変換を施すと、以下のようになります。
H(H|0>) = H((1/√2) |0> + (1/√2) |1>)
= (1/2) (H|0> + H|1> + H|0> - H|1>)
= (1/2) (|0> + |1> + |0> - |1>)
= |0>
最後に、この状態を測定すると、状態 |0> が測定される確率が100%となります。
つまり、量子状態 |0> にアダマール変換を2回施して測定すると、必ず状態 |0> が得られます。

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私の質問(Q2): では、|1> についてはどうですか?

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Chat GPTの答え(A2):量子状態 |1> にアダマール変換を施すと、以下のようになります。
H|1> = (1/√2) |0> - (1/√2) |1>
次に、この状態に再度アダマール変換を施すと、以下のようになります。
H(H|1>) = H((1/√2) |0> - (1/√2) |1>)
= (1/2) (H|0> - H|1> + H|0> + H|1>)
= (1/2) (|0> - |1> + |0> + |1>)
= |1>
最後に、この状態を測定すると、状態 |1> が測定される確率が100%となります。
つまり、量子状態 |1> にアダマール変換を2回施して測定すると、必ず状態 |1> が得られます。
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●【例3】最後に、Chat GPT自身に、驚異/脅威についての見解を聞いて見ました!これも立派な答えですね。
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私の質問(Q1): チャットGPTは驚異的な結果を与えてくれますが、人間社会で脅威となることはありませんか?

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Chat GPTの答え(A1):人工知能技術の進歩は、将来的には人間社会にいくつかのリスクをもたらす可能性があると考えられています。たとえば、人工知能が人間の仕事を奪うことや、悪意ある人々が人工知能を悪用して攻撃的な目的を達成することが懸念されています。

私が人間社会に脅威となる可能性があるとすると、それは私を使用する人々が私を悪用することがあるためです。例えば、私を使用してフィッシング詐欺、スパムメール、あるいは偽の情報を拡散することが考えられます。しかし、OpenAIは私を使用する人々に対して、適切な使用を促すためのガイドラインを提供しています。

人工知能技術が進歩するにつれて、社会に対するリスクを最小限に抑えるために、倫理的な問題についての対話や議論がますます重要になってきています。人工知能技術の使用に関しては、適切な倫理規範を策定し、私たちが人工知能を使用することの倫理的な影響を考慮する必要があります。

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私の質問(Q2): 人間もあなた(chat GPT)も間違った答えを返すことがあるでしょう。それに関するあなたのお考えを述べてください。

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Chat GPTの答え(A2):はい、人間も私(chat GPT)も、間違った答えを返すことがあります。私は機械学習に基づいており、トレーニングに使用されたデータに基づいて応答を生成するため、トレーニングデータに存在しない情報や、不正確な情報に基づいて応答を生成する可能性があります。

同様に、人間も誤った情報や先入観に基づいて、不正確な情報を提供する可能性があります。私と同様に、人間も知識や経験に基づいて判断を下すため、限定された視点でしか情報を処理することができません。

誤った情報を提供するリスクを最小限に抑えるためには、情報源を確認し、複数の情報源を比較することが重要です。また、私たちは常に疑い深く、自分たちの知識の限界を認め、誤った情報を受け入れないようにする必要があります。
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2023年2月19日日曜日

しっかり学べる量子コンピューティング入門書二部作

 量子コンピュータ関係の洋書の新刊は増え続けている。和書はまだ少ないが、こちらも徐々に増えてきた感がある。どの書もそれぞれ特色があるのだが、今回は以下の2冊を(出版から2、3年経過しているのだが)簡単にご紹介したい。
 高校数学程度から出発して、(著者が言っているとおり)ゆっくり丁寧に説明されていて、実際とても分かりやすい。それでいて、量子コンピューティングの基本がしっかり身に付くと実感できる。素晴らしい!多くの人々に推奨したい本である!

 「はじめに」に書かれている以下の文言にも同感できる:
"国際的な量子コンピュータの開発競争は激しくなっており、日本でも国として「ムーンショット型研究開発制度」「統合イノベーション戦略推進会議」等により量子コンピューティング関連技術を支援することが決まりました。量子コンピュータを学ぶ動機は大きくなる一方です。

(A)束野仁政、高校数学からはじめる量子コンピュータ第2版
・量子コンピュータへの誘い
・1量子ビットの世界
・1量子ビットの量子回路
・2量子ビットの世界
・2量子ビットの量子回路
・量子プログラミング入門編
・量子プログラミング実機編
・数学に関する補足
(B)束野仁政、高校数学からはじめる量子コンピュータ2
・n量子ビットの世界
・n量子ビットの量子回路
・量子プログラミング
・ドイチェのアルゴリズム
・量子テレポーテーション
・量子誤り訂正入門
 これら2冊に含まれる内容は、(既にこのブログに何度も登場した)Prof. Chris Bernhardtの書籍(C)の一部とほぼ同程度の詳しさであり、叙述のコンセプトも似ているように思われる。実際、(A)(B)の著者、束野仁政氏は巻末に、「書籍(C)は、本書を読まれた方が次のステップで読むのにも向いています。」と記している。

 この2冊(A)(B)のもう一つの特色として、Qiskitによるプログラミングを行なって理解を確かめられる点が挙げられる。すなわち、IBMの量子回路シミュレータ、またはIBM Quantum 実機を動かせる楽しみ、嬉しさは読者の学習意欲を大いに鼓舞することになろう。Qiskit (Python) ソースコードはGitHubで提供されているので、すぐに動かせる。

 初心者は、量子の性質に戸惑うことが多いだろう。それは色々あるのだが、(A)では、例えば「量子状態の区別」という章が早めに設けられているのはとても良い。具体的には、2つの量子状態
 (|0⟩+|1⟩)/√2と(|0⟩-|1⟩)/√2は
一見、異なるように思えるが区別はできない。しかしアダマール変換後は区別できること。
また、(|0⟩+|1⟩)/√2と-(|0⟩+|1⟩)/√2
も一見、異なるように思えるが、これは区別できない。などの理由が丁寧に説明されている。区別できる/できない、とは、量子の測定結果(の確率)がどうなるかということである。

 書籍Vol.2である(B)では、ドイチェの量子アルゴリズムがある。そこで使われるオラクル論理ゲートの仕組みとアダマール変換、テンソル積、排他的論理和を使った説明もとても詳しいのでフォローしやすい。そして、それをQiskitプログラム作成へ無理なく導いている。
 
 また、量子テレポーテーションは、「量子もつれ」が効果的に利用されているのだが、その、CNOTやアダマールゲートを使った計算式はかなり混み入ったものになるが、これもドイチェアルゴリズムの場合と同様、丁寧な説明に助けられるのである。

 書籍(B)の最後の項目である「量子誤り訂正入門」では、ビット反転の訂正に加えて、位相反転の訂正、さらにそれら同時発生の訂正についても解説している。入門レベルの書としては、かなり頑張っていると感じられる。

#本書の購入について
(A)と(B)はAmazonや紀伊國屋Webでは買えません。下記から購入できます。電子版と紙版があります。ただし、(A)の紙版は売り切れのようです。
https://snuffkin.booth.pm/
両方とも100ページ程度、価格1,000円となっています。

(補足)------------------------------------------------------
 同じ著者、束野仁政氏による第3作目の書籍も発売されていました。ただし、pdf版のみであり、紙版は無いようです。これは、第1作、第2作を読まなくても、これだけで閉じていますので、この第3作から学び始めることもできます。前の2作では、Qiskitにより、IBM量子回路シミュレーション、またはIBM Quantum実機による実行を行なっていたのですが、この第3作では、Amazon Braket(Python SDK)を利用します。Qiskitの場合と同様に、同じプログラムでシミュレータでも実機でも動かせます。AWSの他のサービスとの連携もしやすいようです。
 Amazon Braketでは、シミュレータ2種の他に、D-Wave、IonQ、Rigettiという量子コンピュータ実機を利用できます。ただし、利用時間に応じて課金されますので、それは意識しておく必要があります。

2023年2月17日金曜日

ITシンポジウムで量子コンピューティングに関して発表

 神奈川工科大学主催の「ITを活用した教育研究シンポジウム(2023-3-10)」で、以下の発表を行います。大学にも迫り来る量子コンピューティングに関して、短い拙論ですが、小生の経験と見解を述べます。何らかの意義はあると信じます。ご参考にして戴ければ幸いです。

 講演ビデオ(約12分間)は、ここに(Youtubeに)公開しました。
 以下は、発表スライドのドラフト18枚の縮小版です。正式版ではありません。