2024年6月17日月曜日

量子位相推定(Quantum Phase Estimation)-理論と計算

【要旨】量子コンピューティングの中級レベルでは、位相推定が重要事項の一つになる。それは、ユニタリ行列に対して、固有状態の固有位相を推定するものである。その前半部の計算結果は、ある正規直交基底ベクトルに対する量子フーリエ変換の結果と同一となる。従って、後半では、前半の結果に対して逆量子フーリエ変換を施し、全ての量子ビット(固有状態ベクトルを除く)を測定すれば固有位相を推定できる。このあたりの計算を明らかにできれば、理解が大いに進むであろう。そのポイントは、以下のような数式の意味を説明することかもしれない。
Q (Human): What is this?
A (Generative AI): The expression represents the superposition state after the application of the controlled-U operations, with the phase factor corresponding to the binary fraction of the phase ϕ. This is a crucial step in estimating the eigenvalue’s phase in the QPE algorithm.

🔴量子フーリエ変換QFTを復習
 量子位相推定アルゴリズムの前半の結果を、正規直交基底ベクトルに対するQFTの結果と比較する必要上、まず、QFTを復習する。これまでもQFTに関していくつか記事を書いてきたので、ここでは、今回必要な計算を中心に示したい。
 下図は、正規直交基底ベクトル|j>に対するn-qubitのQFTの詳細計算である。式(4)から式(5)への変形はわかりにくいかもしれないが、式(5)から逆に展開してみれば式(4)になることが分かる。

 ここで注目していただきたいのは、式(6)の赤字部分である。eの冪に、2進の少数がある。式(5)から式(6)への変形の詳細手順は、下図をご覧いただきたい。上記の整数jを2進表現し、さらにそれから2進の少数を導いている。また、eの(i2π・整数)乗は1であることを使っている。ここで、iは虚数単位である。
 とにかく、この後、式(6)を再び参照することになる。

🔴量子位相推定Quantum Phase Estimatonとは
 ここからが本題である。位相推定とは、ユニタリ行列Uに対して、その固有状態|v>の位相を求める(推定する)ことである。それは、下図のような式で表せる。

🔴量子位相推定を構成する量子回路
 いきなりだが、そのための量子回路図を以下に示す。上段のn-qubitが位相推定の計算用であり、下段に、|v>がユニタリ行列Uの固有状態として与えられる。固有状態から右へ引かれた直線は1本のように見えるが、実際は、行列Uへの入力量子ビット数がmだとするとm本存在する。Uの右肩に冪乗が書かれているが、その数だけ制御付き(黒点付き)Uの適用を右方向へ繰り返すことを意味する。後半のIQFTは(後述するが)、逆量子フーリエ変換である。最後にn-qubitを全て測定している。
 この量子回路で量子位相推定できるのか?それに答えるには、以下に述べる通り、回路を右に進める各ステップで、量子ビットシステム全体の状態がどのように変化するのかを明らかにすれば良い。

🔴量子位相推定の計算
 上記回路図の各ステップでの状態を計算した結果を下図に示す。ここで最も重要なのは位相キックバック(Phase Kickback)である。これに関してはこちらの記事をご覧いただきたい。下図の中の赤字で示したeの冪乗は位相キックバックの効果そのものである。制御付きUが繰り返される度に、|1>の位相にその効果が累積されることが分かる。
 さて、上記の計算を、上位n-qubitのそれぞれを使って明示するには下図のようにする。そのため、量子フーリエ変換のところで示したのと同様に、2進の少数を使っている。
 これら2つの図と、最初に述べた量子フーリエ変換の結果と比べて見ると、全く同一であることが分かる!すなわち、ここまでに述べた量子位相推定のための計算は、QFT計算と同じである。従って、次に、逆量子フーリエ変換IQFTを施せば、正規直交基底ベクトルが得られるはずである。実際には、n-qubitを全て測定して、高い確率で得られた量子ビットの組み合わせから、最終的に求める固有位相を推定(確率的に判断)できる。以下のとおりである。
 具体的な位相推定の計算例は、こちらの記事で示す。

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