2024年6月19日水曜日

量子位相推定(Quantum Phase Estimation)-計算例

【要旨】前回の記事では、量子位相推定の理論と計算法の詳細を示した。今回は、簡単な例でその計算を 確認する。すでに書いたかもしれないが、量子位相推定は、Shor's素因数分解アルゴリズムの中核でもある。

🔴量子位相推定回路の一般形
 前回記事で述べた量子位相推定のための回路の一般形をFig.1に再掲する。図の下部に、m-qubitのユニタリ行列Uの固有状態|v>を与えている。それに対して、上部では、前半でn-qubitを使って、制御付きUゲートの繰り返しを構成し、後半で逆量子フーリエ変換IQFTを適用する。最後にn-qubit全体を測定する。詳細は、前回記事をご覧いただきたい。


🔴位相シフトゲートP(2π/3)で試す
 具体例として、位相シフトゲートP(2π/3)の場合の量子回路をFig.2のように構成した。IBM QuantumのComposerを利用した。この位相ゲートに対する固有状態として、|1>を与えている。これは、Fig.1においては、m=1の場合となる。そして、量子ビット数n=3, 4, 5の3ケースの回路を用意した。制御付きPゲートを、2個、4個、8個、16個と繰り返す必要があるが、回路図を簡単にするため、Composerのカスタムゲート機能を使った。すなわち、冗長になるゲートの繰り返しを、p066p_2, p066p_4, ... , p066p16のような新たなゲートを作ることで簡単にしている。

🔴量子位相推定の実行結果
 上記の3ケースに対する実行(Composerシミュレーション)結果をFig.3に示す。結論から言うと、3ケースとも、確率約70%で、妥当な位相の値が得られた。当然ながら、量子ビット数を増やすに従って結果の精度が向上する。
 対象としたゲートP(2π/3)の固有状態|1>の固有位相は2π/3 = 120°である。n = 3, 4, 5の測定結果は、いずれも、古典ビット数nの範囲では最適値を与えている。なお、測定結果のビット列(2進整数)からどのように位相角度を求めるのかについては、すでに前報の後半で述べたのでここでは略している。


🔴量子コンピュータ実機ではどうなのか?(結論:negative
 上記Fig.3に相当する、量子コンピュータ実機での結果も得た。しかし、.... ここではその詳細データの掲載はやめておく。現時点では、期待した結果ではなかったからである。この位相推定問題は、現在の量子コンピュータ(ハードウェア)にとって、大変苦手の部類に入るのかもしれない。たとえば、Fig.3のn = 5 qubitsの場合、測定結果01011(古典5ビットでの最適解)は確率70%で得られたが、量子コンピュータ実機では、その確率は10〜20%前後でしかなかった。つまり、解から遠い測定結果も同程度の確率で見られるのであった。(もしも私の誤りであることが判明したらお詫びするが....

 ここで思い起こしたことがある。2024年2月頃に、IBM Quantumのアルゴリズム集からShorの素因数分解が削除された。当面、大規模な誤り耐性量子コンピュータの実現が難しいためとのことであった。私が実施した小規模な位相推定問題でも、上記の如く、現状の量子コンピュータでは困難のようなので、なるほどと納得するのである。引き続き、研究開発の進展を注視して行きたい。量子位相推定アルゴリズムは間違いなく非常に優れたアイディアだ!いずれ、100%に近い確率で正解が得られる日が来るだろう。

【私の質問】
 現時点の量子コンピュータにとって、位相推定アルゴリズムの実行は、他の量子アリゴリズムに比べて、かなり難易度が高いですか。つまり、測定しても、高い確率で正解が得られないという状況ですか?
【Gen AIの答え】
 現時点での量子コンピュータでは、量子位相推定アルゴリズムの実行は非常に難しいです。主な理由は、高いエラー率、限られた量子ビット数、測定の確率性、そして量子エラー訂正の複雑さによります。これらの問題が解決されるまでは、他の量子アルゴリズムよりも実行が困難です。
【書籍の表紙にも】
 最近購入した、T.G. Wongによるこの書籍の表紙は、Fig.1そのものだった!著者の意図はどこにあるのだろうか?これを実現することが一つの目標ということだろうか?

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