【要旨】量子コンピューティングの(恐らく)中級レベルになると、位相キックバックと呼ばれる現象の利用が重要となる場面がある。その数学モデルを調べる。
🔴 位相キックバックとは
「キックバック」と言っても、もちろん、最近話題になっている「⚪︎⚪︎資金のキックバック」ではない。「位相のキックバック」のことである。具体例を一つ見てみよう。図1において、レジスタが2つあり、2つのqubitを使うとする。上段のqubitの状態を|0>とし、アダマールゲートHを適用する。下段は|1>に初期設定する。次に、上段を制御ビット、下段を標的ビットとする制御付きZゲート(CZゲート)を適用する。
この時、CZの前後で、両方のqubitの状態はどのように変わるであろうか。下段のqubitは、上段のqubitの値が1になった時にZゲートが作用するので、|1>が-|1>に変化(相対位相が180度増加)するが、上段のqubitは単に制御用なので変化はないはずである。ところが、実際には、そうはならず、下段のqubitは変化せず、上段のqubitの相対位相が反転する!これは不思議に思える!この現象が、位相キックバックである。
🔴 位相キックバックの数学モデル
だが、この不思議に思える現象は、図2に示す数学モデルで明確に説明できる。とりあえず、上部qubitに適応される最後「H」と「測定」はここでは無視して欲しい。図1ではCZを用いたが、ここでは一般的に、制御付きユニタリ行列Uを使っている。ただし、Uへの入力状態|v>は、Uの固有状態であるとする。
図2に示す通り、下段のqubitに起こった位相の変化が直ちに上段のqubitに反映される(キックバックされる)ことが分かる。
次に、上部qubitに適応される「H」と「測定」はなぜ付加されているのか?それは、図3に示す通り、その測定結果(確率)から、固有状態の固有位相を推定できるからである。🔴 位相キックバックの数学モデルの確認
ここまでで、位相キックバックの仕組みは分かったのだが、念のため、図1でのケースを計算してみると図4のようになる。
🔴 自作量子回路シミュレータによる位相キックバックの確認
最後に、自作のシミュレータ(スマホアプリとして作成)を使って、図1に相当する位相キックバックを図5に示した。量子状態|q0q1>の基底ベクトルのそれぞれを円グラフにして、確率振幅(塗りつぶし円の面積)と位相(黒実線の角度)を示している。左隅と中央の図から、上段(Alice)のqubitの位相が、CZの前後で180度反転していることが分かる。また、右端図から、測定結果が必ず1となることも分かる。測定するまでもなく。
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