2025年10月10日金曜日

量子コンピューティングExpo2025に参加

🟢概況
 量子コンピューティングExpo2025(2025年10月8日〜幕張メッセ)に参加したので、断片的だが、小生に残った事柄を記録したい。例年通り、「AI・人工知能Expo」と同時開催であり、【特設エリア】生成AI Hub, Aiエージェントworldへの出展数と参加者が圧倒的に多い。だが、小生はそれにもかからわず、量子コンピューティングの見聞に徹した。IBMやGoogleという巨大量子コンピュータ企業の出展はないが、富士通や、ベンチャー、従来のIT企業の取り組みなどが見られた。出遅れないようしたいとの気概も感じられた。

🟢量子コンピュータ(モックアップ)の展示
 今年7月末に大阪で開催されたQuantum Innovation 2025は、専門家向けだったのに比べて、今回のExpoはIT技術者や一般向けである。会場でまず目に入ったのが、産総研の「今後の1000量子ビットコンピュータのモックアップ」である。「撮影OK」と表示されているので、多くの人が記念撮影していた。従来のコンピュータとは造りがまるで違うなあ、といういう印象を与えるのに十分である!

🟢会場フリーセミナ(予約不要)に人気
 展示のすぐ傍で随時行われたフリーセミナは予想外に人気があった。初日は、図の通り5件の発表があり、いずれも関心が高かったようである。

 このうち、(株)Quemixという会社の「量子コンピュータの使い所とユースケース」は、とても良かった。材料計算、機械学習などに、従来のスーパーコンと量子コンピュータを連携して取り組む説明だが、これはすでに小生のブログ記事に書いたアルゴリズム(古典・量子ハイブリッド)そのものではないか!だから、素直に頭に入ってきた。さらに、その場合、古典データから量子状態への変換、および量子状態測定結果の取り出しの効率化が課題であるとの説明にも大いに納得できた。

🟢量子機械学習への取り組みの展示
 従来のIT企業、ソフトウェア会社でも、遅れを取らないようにと、機械学習への量子コンピューティングの適用を試みる展示もあった。たとえば、量子SVMを展示している会社があった。小生は、これに関してはこのブログ記事にも書いているので、自然にバンバン質問することができた。話しが深まり、「これ以上の説明には社長を呼んできます」というところまで行った。現状では、量子状態シミュレータで検討しており、量子コンピュータ実機では確認していないとのことであり、これも大いに納得。

🟢藤井啓祐教授とQuEra北川拓也氏の対談
 これは、予約制のセミナーだが、実際の内容は、量子コンピューティング界では誰もが知る有名人のお二人の対談(45分)だった。Webではなく、目の前でこの聞くと何かが違う!以下、全く断片的だが、思い出した項目を羅列する。    

  • 2014年に、量子コンピュータが誕生した。それ以降、超伝導方式が引っ張ってきた。現在は、それを含めて5の方式が進行中。
  • 現在の「実験科学」は、「計算科学」へ移行する。特に化学計算分野。新しい触媒の発見や電池開発に注目。
  • AIが勝手に計算する時代になってくる。
  • 日本は、米国に次いで、ユースケースの発表が多い。まだ、NEDOでは懸賞付きCHallenge(コンテスト)も開催している。
  • 科学、ビジネスもいいが、これまでにないようなゲームも期待できる。パソコンの黎明期もゲームが引っ張ってきたと言える。それと同じかも。ユーザコミュニティQPARCも作られている。
  • Youtubeの量子コンピューティング解説が従実している。ぜひ、活用すべき。以前は、技術的に疑問符がつくもの多かったが、最近の例えば、ショアの因数分解などで、素晴らし物がある。そのまま大学の講義になるほどである。
  • 実際に動く量子コンピュータは100年経ってもできないと言われていたが、10年ですでにここまできている。ここ数年は、100〜200量子ビット構成で止まっているように見える。1000量子ビット機も発表されているが、稼働状況は不明な点が多い。
  • それは誤り訂正技術の進展を待っているためとも思える。
  • 現状では0.1〜1%程度の誤りが発生する。それを緩和する訂正技術も進んでいる。その技術の基本はパリティチェック(多数決で判断)に根ざしているように見える。
  • 30件を超える質問がwebで寄せられており、参考になった:「量子コンピュータの誤作動は、宇宙にコンピュータを置いたら?間違える理由の解消として摩擦、熱、重力とか解決できたりしないの?」、「文系の人でも量子コンピュータについて学ぶには、どのような所から勉強すればよいでしょうか?」、「IBMが野心的なロードマップを出していますが、どのように見られていますか?」、「NISQの範囲で世の中のビジネスにインパクトを与えるものってどんなものがあるのでしょうか?具体的なイメージがわかず、、、」等々。


2025年10月3日金曜日

Schrödinger Equation and Quantum Computing

Questions About Quantum Computing

As you progress in your study of quantum computing, the following questions will likely arise. This article explores these points in more detail.

  1. In most books and resources on quantum computing, the Schrödinger equation—which forms the foundation of quantum mechanics—rarely appears explicitly. Why is that?

  2. In quantum circuits used to implement quantum algorithms, the order in which quantum gates are applied is crucial. But is it really acceptable to ignore the execution time of each quantum gate?

    ---> For more information, please see this pdf file.


Schrödinger方程式と量子Computing

🔴量子コンピューティングに関する疑問


 量子コンピューティングをある程度進めて行くと、以下の疑問が湧くであろう。本稿ではこれを検討する。


  1. 量子コンピューティングの書籍等では、量子力学の基礎を与えるSchrödinger方程式がほとんど表に出てこない。それは何故か?
  2. 量子アルゴリズムを実装する量子回路において、量子ゲートの適用順序は重要だが、各量子ゲートの実行時間は考慮しなくて良いのか?

2025年9月28日日曜日

Do You Really Need Quantum Mechanics to Learn Quantum Computing?

Quantum computing is gaining global attention—not just among physicists, but also among computer scientists, engineers, and even high school students curious about the future of technology. As more people enter the field, one common question arises:

“Do I really need to know quantum mechanics to study quantum computing?”

This is not just a theoretical debate. It matters for educators designing curricula, for students choosing courses, and for professionals wondering whether they can contribute without a physics background. Let me share my own journey and reflections on this important question.

A Question from a Symposium

About six months ago, I gave a short talk on my quantum computing work at a small symposium. During the Q&A, one professor asked me exactly this question. At the time, I answered:

“Quantum computing leans more toward information science, so quantum mechanics isn’t absolutely necessary—but sometimes it becomes important.”

That wasn’t entirely wrong. But after thinking it over, I’ve come to a clearer conclusion.

Quantum Mechanics Is Essential

It’s actually more accurate to say: yes, quantum mechanics is essential.

That doesn’t mean computer science students, for example, must take a full course in quantum mechanics before diving in. Most introductory textbooks on quantum computing already begin with the very basics of quantum mechanics—like the behavior of qubits—because without that foundation, you can’t even start the discussion. In that sense, it’s possible to step into quantum computing directly through these resources.

When a Deeper Foundation Becomes Necessary

As your study progresses, though—especially when working on applications in physics, chemistry (energy-related problems in particular), or optimization—you’ll need at least an undergraduate-level understanding of quantum mechanics.

In my case, I’ve spent most of my career in information technology, but in recent years I’ve been exploring quantum computing as an “amateur researcher.” Feeling the need to revisit the fundamentals, I found a book that turned out to be ideal:

Leonard Susskind & Art Friedman, Quantum Mechanics: The Theoretical Minimum, Penguin Books, 2014 (364 pages).
(A free PDF version is available online.)

Learning from Prof. Susskind

Prof. Leonard Susskind is a world-renowned physicist, and his coauthor Art Friedman is a former student. The book grew out of a ten-lecture series given at Stanford University for Silicon Valley engineers. That origin gives the text both rigor and clarity.

It’s not a breezy read, though. Even though the theory is pared down to the “minimum,” you still need to carefully work through the calculations. It took me about two months to complete a first pass, and I still revisit key sections. But the reward was immense: I rediscovered insights rarely emphasized in standard quantum computing texts, such as:

  • Observables (physical quantities) are represented by linear operators.

  • The time derivative of an expectation value is related to another physical quantity.

These concepts may sound abstract, but they capture the very essence of quantum mechanics.


My Study Approach

🟢 To keep myself motivated, I decorated the book’s cover with bright designs and added sticky notes for each chapter, giving me a quick visual map of its structure. For me, study works best when it feels both serious and fun.

🟢 I also found the YouTube lecture series that corresponds to Chapters 1–10 invaluable. Each session is about two hours long, recorded in an actual Stanford classroom. Watching students ask sharp questions—and hearing Prof. Susskind pause, think, and respond with care—made the material feel alive and approachable.

Final Thoughts

So, is quantum mechanics necessary for learning quantum computing?
Yes—without question.

You don’t need to master quantum mechanics before you start, since most textbooks will guide you through the basics. But if you aim to go further—to tackle real applications, explore research, or simply gain a deeper understanding—you will eventually need the solid grounding that only quantum mechanics can provide.

Fortunately, resources like Susskind’s The Theoretical Minimum make that journey both possible and rewarding. And with the global surge in interest, now is the perfect time to embrace both the physics and the computing sides of this exciting field.

2025年9月27日土曜日

量子コンピューティングの習得に量子力学は必須か

<こちらには、この記事の英語版があります。多少、ニュアンスを変えて翻訳しました>

 半年ほど前の小さなシンポジウムで、小生は、量子コンピューティングの取り組みに関する短い講演を行った。ある先生から、「量子コンピューティングを学ぶにあたって、量子力学は必要なのでしょうか?」という質問があった。「量子コンピューティングは情報科学寄りの側面が強いので、絶対必要というわけではないが、時として必要になると思う」という回答をした記憶がある。特段、誤りとは言えないが、これをもう少し考えてみた。

 むしろ、量子力学は必須である!と言う方が正しいかったと思う。ただし、特に情報系の学生が量子コンピューティングを学ぶ前に、量子力学の授業を別途受けることが必須ということではない。というのも、量子コンピューティングは量子力学の上に築かれているので、一般的な量子コンピューティングの書籍は、(量子ビットの特性など)量子力学の最も基礎から始まるからである。そうしないと、話は始まらないのである。だから、そのような書籍や教科書から入って行けば良いのである。

 それでも、量子コンピューティングがかなり進んできて、(特に、エネルギーに関係する)物理や化学、最適化などの応用に取り組むには、学部レベルの量子力学を習得している必要があるだろう。小生の場合、ずっと、情報系で仕事をしてきたが、ここ数年は独自にアマチュア量子コンピューティングをやってきた。このあたりで、量子力学の基礎を見直したいと考えていたところ、私にとって最適と思われる以下の書籍に出会った。

Leonard Susskind & Art Friedman, Quantum Mechanics - The Theoretical Minimum, Penguin Books, 2014.(全364頁)(なお、本書のpdf版は無償公開されている)

 著者の一人Prof. Susskindは、著名な物理学者で、もう一人はその弟子である。シリコンバレーで働くIT技術者向けにStanford大学で行われた10回の講義が元になっているとのことである。それだけに精緻でとてもわかりやすい雰囲気だが、スイスイ読める内容ではない。理論は必要最小限にしているとはいえ、大事な計算はきちんとフォローしないとついて行けない。何とかここ2ヶ月ほどで一通り読み終えた。読み返すべき箇所も残っているが。通常の量子コンピューティングの書籍では得られない、量子力学の真髄をいくつか見直すことができた。たとえば、下図に示すような、「物理量(観測可能量)は線形演算子で表わされる」や「その期待値の時間微分は別の物理量と関係する」などである。他にもいくつかある。
🟢難しい内容も、明るく、楽しみながら掴もう!そういう思いを込めて、オリジナルの表紙にたくさんのデコレーションを施した。また、各章毎に付箋をつけたりして、本書の構成をよく掴めるようにする。それが私の読書流儀。

🟢第1章〜第10章に対応したYoutubeビデオもあり重宝する。各回約2時間あるのでじっくり見る。私の場合、本書を読んでから見ると分かりやすいと感じる。スタンフォードの教室での実写であり、受講者からの質問が多いのにも感心する。ちょっと考えながら、丁寧に回答しているSusskind教授の姿に親しみを覚える。
🟢結論として、量子コンピューティングに着手することは、先入観に反して、それほど難しくないと言えよう。難しいのはその数学ではなく、量子そのものの理解であると言われる。これは念頭においた方がいいだろう。

2025年9月16日火曜日

佐藤文隆博士の逝去

In Memory of Dr. Fumitaka Sato

 仁科記念賞の受賞や、アインシュタイン方程式のトミマツ-サトウ解などで著名な物理学者 佐藤文隆博士が逝去されたニュース(2025年9月14日)に接した。私は単に、博士の一つの新書(下図)の読者にすぎないが、その叙述に感銘を受けていた。私は、物理学の素人であるが、ここ数年、量子コンピューティングの基礎的な技術に取り組んできた。その過程で、この書籍から量子論の哲学と言えるものを学ぶことができたように思う。ご冥福をお祈りします。

I was deeply saddened to learn of the passing of Dr. Fumitaka Sato on September 14, 2025.
He was a distinguished physicist, well known for receiving the Nishina Memorial Prize and for his contributions to general relativity, including the Tomimatsu–Sato solution of Einstein’s field equations.

Personally, I am only a humble reader of one of his books (pictured below), yet his writing left a lasting impression on me. Though I am not a professional physicist, in recent years I have been working on the foundations of quantum computing. Along the way, I felt that Dr. Sato’s book allowed me to glimpse something of the philosophy of quantum theory—a perspective that resonated with my own journey of exploration.

May he rest in peace.

🟢以下に、死去の3日前に行われた最後の京大での講演がある。
量子力学の100年 佐藤文隆(京都大学名誉教授)2025年9月11日
(1時間15分に渡る最後の講演、3日後の9月14日に死去)

2025年8月29日金曜日

「変分アルゴリズム設計」でIBMの上級認定資格を取得

 前回、「量子機械学習」で、IBMの認定資格(Intermediate)を取得しました。(→こちらの記事です)今回は、「変分アルゴリズム設計」という認定資格(Advanced)です。下記のとおり、今回のチュートリアルは、量子力学の色彩が少し濃くなっています。分量も多く、難易度も高く感じられましたが、1週間ほど籠って学び受験しました。何とか合格しました!

🟢IBMチュートリアル:変分アルゴリズム設計
 
量子力学を基盤とした理論が中心ですが、シミュレータやIBM Quantum 実機で例題も動かしながら進めます。最後の方の例題(VQE、VQDなど)のいくつかは実機でsessionを使うため、Open Plan(無料)では動かせません。しかし、その部分は説明を理解するだけで十分かと思います。

🟢資格認定バッチと認定証

🔴変分量子アルゴリズム(VQA:Variational Quantum Algorithm)の意義

 先日、理研のスパコン(富岳)とIBMの最新QuantumマシンHeronの連携のニュースがありました。そこでの有力なアルゴリズムの枠組みが、今回のVQAです。化学計算や組み合わせ最適化などを、既存のスパコンと量子コンの連携で解くための実用的な方法とされています。下図は、このニュース記事と今回のチュートリアルをもとに作成した私のオリジナル作品です!なので、©も宣言しています!

 化学の電子構造問題や組み合わせ最適化問題では、それぞれ特有のハミルトニアン(エネルギー演算子)の期待値が最小となる量子状態を探す(=基底状態エネルギーを得る)ことが求められます。これを、スパコンと量子コンの連携で解きます。ワークフローは図の通りですが、要点は、スパコン側は、量子コンが推定したハミルトニアンの期待値を受け取り、目的の基底状態エネルギーへ向けた最適化を図ります。一方、量子コンは、スパコン側が用意したAnsatz(パラメータ化された量子回路)を測定し、ハミルトニアンの期待値を推定することに徹します。

 この構成は、古典ニューラルネットワークを想起させます。スパコン側で設定するAnsatzは、ハミルトニアンに適合したネットワーク層の構成とニューロン数を決めることに相当し、そこに含まれるパラメータは、辺の重みとバイアスに相当すると考えられます。このパラメータは、通常、Ansatzを構成する量子ゲート(回転ゲート)の角度です。

 基底状態エネルギーへ向けた最適化では、コスト関数(=期待値)のパラメータに関する微分が必要なはずですが、量子コン側での微分は負担も大きく、ノイズの影響を受けやすいので、現実的ではないようです。そこで、スパコン側の最適化は、通常、gradient-freeな方法で(つまり、量子コン側に勾配を要求しないで)行われます。なお、スパコン側は、このようなワークフローを、多数のパラメータ初期値を用意して並列に実行(マルチスタート)できます。ただし、量子コン側はどの程度マルチで走れるのかはまだよく分かりませんが。

🔴VQAが量子コンピューティングの全てではない
 
この枠組みは、"Quantum-Centric Supercomputing"と呼ばれています。しかし、上の図を眺めていると、「頭脳は従来のスーパンコンで、量子コンはこれまでにない驚異の物理実験装置」のように見えます。一方、量子コンピューティングの他の分野、例えば、量子暗号通信や量子機械学習などの発展も大いに期待されています。このような情報科学寄りの問題では、ハミルトニアンとは直接関係しない技法(確率振幅の増幅や位相推定など)が使われます。真に量子コンピュータに向いた問題は何なのかが、だんだん見えてくるのかも知れないです。

2025年8月20日水曜日

A Minimal Collection of LaTeX Examples for Mac Pages

 LaTeXにあまり慣れていない(私のような)人が、量子コンピューティングで資料を作る必要に迫られて作った忘備録です。これだけ頭に入れておけば、大体足りそうな、mini例題集です。なお、私は、LaTeXに関しては、WordよりもMac Pagesの方が、使いやすいように思います。

For other platforms, you may be able to write simpler LaTeX code, but here I have used a format that works reliably on Mac pages.

 この例題の全体は、こちらのpdfファイルにあります。

2025年8月19日火曜日

量子機械学習でIBM認定資格を取得

 IT分野では、資格認定が色々あります。量子コンピューティングの世界もそうなってきました。今回、量子機械学習(QML : Quantum Machine Learning)の基礎に関するIBM認定資格を取得しました。下図はそのデジタルバッチと認定証です。勉強や探求を続けるには、このようなマイルストーンがあるといいですね。

Earned IBM Certification in Quantum Machine Learning
In the IT field, there are many different kinds of professional certifications. Now, the world of quantum computing is beginning to follow the same path. This time, I obtained an IBM certification on the fundamentals of Quantum Machine Learning (QML). The image below shows the digital badge and certificate. Having milestones like this is a great motivation to keep studying and exploring further.

(→こちらに、その後取得した「量子変分アルゴリズム」認定資格があります。)

🔴IBM認定資格の意味
 IBMでは量子コンピューティング分野のいくつかの資格認定を、Foundational、Intermediate、Advancedに分けています。今回の資格(Intermediate)認定バッチは、例えて言うならば、「量子機械学習」という山岳への入山許可証みたいなものかと思います。道は険しく、まだまだこれからです。デジタルバッチの右下にある、登りかけの階段が象徴的です!

🔴IBMの量子コンピューティング関係チュートリアル
 量子機械学習関係の書籍はまだあまり多くないです。そんななか、IBMが提供している様々な量子計算チュートリアルの一つ、「量子機械学習」は非常に充実した内容になっています。以下のURLをご覧ください。

⭐️量子コンピューティングチュートリアル全体
    https://quantum.cloud.ibm.com/learning/en

⭐️量子機械学習チュートリアル
    https://quantum.cloud.ibm.com/learning/en/courses/quantum-machine-learning

 従来からの公開内容が、2025-07-01の開発環境の一新に伴い、大幅に改訂されています。(1)古典機械学習との関係、(2)古典データの量子化のためのEncoding、(3)Fidelityと量子カーネル、(4)QVC(量子変分回路分類器)とQNN(量子ニューラルネットワーク)などで構成されています。

 このチュートリアル全体の学習には、(経験による個人差が大きいですが)標準的には10時間程度。何ヶ所かに、そのセクションを要約した短いビデオがあり、大いに助かりました。また、理論と計算法の説明に加えて、シミュレータおよび量子コンピュータ実機で動かす例題もあり、コードを実行させながら理解を深められます。

 この講座全体を終えた後、1時間ほどのオンライン試験を受けます。守秘義務のため試験内容等は書けませんが、合格ラインは80点/100満点です。不合格になっても、一定期間後には、再挑戦できる教育的配慮もなされています。

 ただし、前提条件として、量子ビットと量子ゲートの基礎(重ね合わせ、確率振幅、相対位相、テンソル積、ユニタリ変換、エルミート行列、量子もつれ、観測量、測定など)、および、量子計算プログラム開発環境にも、ある程度馴染んでいる必要があります。そうでない場合は、下記の講座からスタートするのが良いと思います。
 ⭐️量子情報の基礎
    https://quantum.cloud.ibm.com/learning/en/courses/basics-of-quantum-information

🔴情報工学科ではどうする
 
世の中の関心も高いので、情報系学科では、量子コンピューティング基礎科目を設置するところが増えています。現時点では実用的でなくても、このような先進分野の魅力を教えてこそ大学、という見方もあるでしょう。一方、そんな時間があるのなら、急成長の生成AIやAIエージェント技術をうんと教えて、就職させた方いい、と言えるかもしれない。0か1かではないこの状況が、まさに量子力学的であリます!

2025年8月11日月曜日

量子状態の内積と量子回路の測定

⭕️はじめに

 ベクトルの内積は高校数学でも習います。機械学習などにおいても、2つのベクトルの類似度の計算としてよく出てきます。量子の世界、つまり量子状態ベクトル(以降、簡単のために単に量子状態と呼ぶ)についても内積は極めて重要です。ここでは、量子状態の内積に関する基本事項を復習します。具体的に手計算してみます。


⭕️量子状態の内積を回路の測定から推定(Swap Test)


 二つの量子状態|ψ>と|φ>について、以下の式が成り立つことを示すことが狙いです。左辺は、内積の絶対値の2乗であり、右辺のP(0)は、下図に示す量子回路において、ancilla(補助)ビットを測定した場合の|0>の確率です。

$$|⟨ψ∣ϕ⟩|^2=2P(0)−1$$

| <ψ |φ> |= 2P(0) -1


 ancillaは最上段の1量子ビットです。また、|ψ>と|φ>の量子ビット数は任意ですが(swapするため)両者で同一である必要があります。


(1)量子状態を計算する 


---これ以降は、こちらのpdfファイルでご覧ください。(Bloggerでは、LaTex数式の取り扱いが少し面倒なため)---