2025年12月27日土曜日

Robins May Use “Quantum Entanglement” for Migration

Summary:
The European robin, a migratory bird, is said to sense the direction of Earth’s magnetic field by using quantum entanglement, helping it navigate toward its destination. Although the mechanism has not yet been fully explained scientifically, I used this idea as a simple example for quantum computing and explored the question, “Why is quantum entanglement necessary?”

→日本語版はこちら

🟢Robins may sense Earth’s magnetism using quantum entanglement

A short article in the Japanese science magazine Newton (May 2022) suggested that migratory birds might make use of quantum effects. According to the article, when a robin’s eye receives blue light, a protein in the retina called cryptochrome produces many pairs of electrons in a quantum-entangled state. These pairs come in two types:

[1] singlet, where the spins point in opposite directions, and
[2] triplet, where the spins are aligned.

It is said that by comparing the proportions of these two states, the bird can sense the angle of Earth’s magnetic field.

Here, we assume that the bird is trying to fly roughly in the direction of the Earth's magnetic field. As illustrated below, if all pairs are in the singlet state, the bird perceives itself as facing parallel to the magnetic field and flies in that direction. If singlet and triplet appear in equal amounts, it perceives itself as perpendicular to the field and will look for another direction.

🟢Checking the idea with my own quantum-circuit simulator

The article itself was only a brief overview. Rather than stopping there, I decided to reproduce the situation using my own quantum-circuit simulator. Since the robin is thought to judge direction from the proportion of singlet states, I modeled this behavior for quantum computing and ran simulations.

To summarize the results: when the singlet proportion was 0.5, the corresponding angle was 90°, so the bird could not proceed. After “trying again,” the bird found a case where the singlet proportion became 0.93. The corresponding angle was 30°, which seems suitable for flight — so the bird could continue in that direction.

This is exactly a practical use of quantum computing. As an exercise for beginners, it is a very good learning problem.

In the circuit I created, two qubits are first flipped with X gates, then passed through a Bell circuit to generate a singlet. After that, I simply apply a rotation gate RY(θ) to the first qubit. By changing θ, the proportion of singlet states increases or decreases, representing different angles between the bird and Earth’s magnetic field.

🟢Testing on IBM’s real quantum computer

Up to this point, everything was done in my simulator. However, when I ran the same circuit on IBM’s real quantum hardware, I obtained nearly the same results, as shown below.

🟢Why is quantum entanglement necessary?

The discussion so far is already complete in one sense — but why do we need quantum entanglement at all? In fact, if we remove the Bell circuit from the circuit above, it still seems possible to change the proportion of singlet and triplet states. That is a very good question, and my answer is as follows.

However, because entangled states are more fragile than tensor-product (separable) states, it may not necessarily turn out exactly as described below.

In short, I believe entanglement is required in order to follow “the rules of the quantum world.” Although I did not explain it earlier, in the first diagram I wrote the words “cancellation” near the singlet and “amplification” near the triplet. These words actually matter.

First, it would be extremely difficult, considering environmental disturbances, to prepare many pairs of electrons whose spins are perfectly anti-aligned from the beginning. On the other hand, if the electron pairs are entangled, it becomes possible to maintain a stable situation in which “the total spin is zero.” This is what I meant by “cancellation.”

Next, Earth’s magnetic field is very weak. When electron pairs are in an entangled state, it becomes easier for them to transition between singlet and triplet with only a very small amount of energy. For example, when moving to the triplet state, the electrons do not respond to the magnetic field one by one. Instead, they respond as an entangled pair, so their sensitivity can be amplified. That is the meaning of the term “amplification” in the triplet diagram.

In summary, if we were only changing the proportions of singlet and triplet states in a purely logical or statistical sense, quantum entanglement would not seem necessary. However, when we take into account the actual “behavior of quantum systems inside living organisms,” the story changes. What happens inside the eye of the European robin is not just a simple chemical reaction, but rather a highly refined form of “quantum computing” shaped by nature over tens of millions of years.


2025年12月25日木曜日

コマドリは渡りに「量子もつれ」を使っているらしい

 【要旨】渡り鳥の一種、ヨーロッパコマドリは、量子もつれを利用して地磁気の向きを感知し、目的地を目指すと言われる。まだ、科学的に解明はされていないようだが、これを簡単な量子コンピューティングの例題とした。また、"なぜ量子もつれが必要なのか?"も考察した。

→English version is here
Linkedinにも投稿しました。(いくつかのQ&Aを含む)

🟢コマドリは「量子もつれ」を使って地磁気を感知する
 日本の科学雑誌Newton(2022-05)に、渡り鳥は量子を利用している可能性があるとの短い記事(実質1ページのみ)がありました。それによれば、「こまどり」は、青い光を受けると、網膜のタンパク質(クリプトクロム)に、「量子もつれ」状態の多数の電子のペアを作ります。そのペアには、スピンの向きが逆向きの[1]シングレットと、スピンの向きが揃っている[2]トリプレットの2種類があります。これら2つの存在割合から、地磁気に対する角度を感知できるとのことです。

 ここでは、この鳥は、ほぼ地磁気の向きに飛ぼうとしていると仮定します。下図の通り、もしも、全てが[1]シングレットであるならば、自分の向きと地磁気の向きが並行と感知するので、その方向へ飛ぶことになるでしょう。また、[1]シングレット[2]トリプレットが同数ならば、地磁気に対して垂直だと感知するので、頭を振って別の方向を探すでしょう。

🟢自作の量子回路シミュレータで確認する
 上記の記事は短い概説でした。でも、ここでお話しだけに終わらせずに、自作の量子回路シミュレータを使って、この状況を再現することにしました。つまり、コマドリは、[1]シングレットが占める割合で地磁気の方向を判断するのですから、これを量子コンピューティング向けにモデル化し、シュミレーションを行いました。

 詳細は略しますが、下図の通り、例えば、[1]シングレットの割合が0.5となる場合は、角度90°ですから、これでは進めません。気を取り直して、首を振っていると、[1]シングレットの割合が0.93となる場合がありました。その時の角度は30°ですから、これならいいいだろう。そのまま、その方向へ飛んで行ける。

 これはまさに、量子コンピューティングの利用です!学び始めた人向けの練習問題として、とても良いのではないでしょうか!

 作成した量子回路では、2つの量子ビットをXゲートで反転させた後、Bell回路を通します。これで、シングレットを生成できます。引き続き、1番目の量子ビットに回転ゲートRY(θ)を与えるだけです。これによって、自分と地磁気との角度θに応じて、シングレットの割合を増減させることができます。

🟢IBMの量子コンピュータ実機でも確認
 ここまでは、自作シミュレータでやりましたが、IBMの量子コンピュータ実機でも、下図の通り、ほぼ同様の結果となることが確認できました。


🟢なぜ量子もつれが必要なのか?
 ここまでで一応閉じていますが、なぜ量子もつれを使うのか? 実際、上の回路でBell回路を取り除いても、シングレットとトリプレットの割合は変更できるように思われます。Good questionです!私の回答を以下に書きます。

ただし、もつれ状態は、テンソル積状態に比べて壊れやすいので、以下の叙述の通りになるとは言えないかも知れません。

 簡単に言えば、「量子の世界の掟」に従うためだと思います。上記では説明しませんでしたが、最初の図の中の、シングレットトリプレットに、それぞれ、"キャンセル""増幅"と記入しました。これが意味を持ちます。

 まず、初期状態として、多数の電子対をそれぞれ完璧に逆向きに揃えておくことは、周りからの影響を考えると非常に困難と思われます。一方、各電子対にもつれを生じさせておくと、「全スピンの合計がゼロ」という状況を安定して作れます。"キャンセル"と書いた意味がそこにあります。

 次に、地磁気は非常に微弱です。電子の対が、もつれ状態になっていると、わずかなエネルギーで、シングレットとトリプレットの間を遷移させやすくなります。例えば、トリプレットに移行する場合、個々の電子が別々に磁場を感じるのではなく、もつれたペアとしてそれを感じれば、その感度は増幅されるはずです。トリプレットの図に"増幅"と書いた意味はそこにあります。

 まとめますと、単に、論理的、統計的に、シングレットとトリプレットの割合を変化させるのであれば、量子もつれは特に必要ないと思います。しかし、上に述べた「生物の世界での量子の振る舞い」を踏まえると、本論に述べた通りにすることが必要です。ヨーロッパコマドリの目の中で起きていることは、単純な化学反応ではなく、何千万年にも渡り自然界が作り上げた、洗練された「量子コンピューティング」なのでしょう。

2025年12月20日土曜日

フェルミ研究所の物理学者らが書いた量子コンピューティング入門書

  量子コンピューティングに関する入門書はかなり多くなってきた。日本語の本は少ないが、洋書はそうなっている。最近、下図の書籍を購入した。K-12(高校生)向けとされているが、大学生にも十分読み応えがあり、しっかりと基礎を築ける書籍である。もちろん、情報系などの大学教員にも間違いなく有用と感じたので、簡単に紹介したい。(他にも良書はあるので、これが最適というつもりはないが、稀有の書であろう。)

C. Hughes, J. Isaacson, A. Perry, R.F. Sun, J. Turner, 
Quantum Computing for the Quantum Curious, Springer, 2021.

🟢ハードカバーのカラー版はAdmazonなどで購入できる。(¥7,300)

🟢無料の完全なpdf版も提供されている。上図左下隅の「Open Access」との表示がそれを意味している!ここからダウンロードできるが、AmazonからKindle版も無償で入手できる。

いくつか特徴を挙げる。

(1)量子力学の観点を重視
 著者は、Fermi National Accelerator Laboratory(米国フェルミ国立加速器研究所)の物理学者たちである。それだけに、量子コンピューティングを単なる情報科学の世界とせず、量子力学の観点を丁寧に説いている。しかも、それを高校数学を習得していれば分かる程度の数式で説明している。

(2)量子物理実験をシミュレーションで
 例えば、最も基本的な事項であるSuperposition(量子状態重ね合わせ)は、物理的にはどのように作られるのか。それを、Beam Splitterや、有名なStern-Gerlachの実験で見せている。それらの多くは、英国のSt. Andrews大学が提供している量子力学シュミレーションツールで確認できるようにしている。Entanglement(量子もつれ)等についても同様である。

(Univ. of St. Andrewsの量子力学可視化プロジェクトQuVisより引用)

 また、深い内容だが楽しく学べそうな、FermilabによるK12向けチュートリアルにも言及している。

(フェルミ研究所のthe Quantum Atlasより引用)

(3)基本的な量子アルゴリズムをカバー
 量子力学の基本概念を理解した後、基本的な量子アルゴリズムに取り組む。Quantum Cryptography(量子暗号)、Quantum Teleportaton(量子テレポーテーション)、Deutsch-Jozsaアルゴリズム(均衡/定常関数判定)などである。ただし、K12向けなので、より高度な量子位相推定(QPE)や量子フーリエ変換(QFT)などは含まれない。したがって、これらを利用するショアの因数分解なども、この先のレベルの問題として残されている。

(4)理論→手計算→シミュレーション/実機実行→確認テスト
 このような順で理解を深める。手計算は特に重要である。その後のシミュレーションは上記(2)で述べた環境を利用する。だが、いくつかは、IBM Quantumコンピュータ実機も使う。Pythonなどのプログラミングは不要である。IBM Quantum Composerという、ビジュアルでインタラクティブな実行環境を使うからである。実機で動かすことは、シミュレーションではない、リアルな物理現象を再現することになるので、大いに意味がある。

(5)コンパクトで、練習問題が充実
 ブックカバー、全体のデザインも美しい。洋書としては珍しく薄い書籍(全150ページ)である。それがとても良い。ためらわずに手に取り、学ぼうとする人が多いだろう。中身は、上に述べた通り、コンパクトな英語で充実している。各章毎に、理解を確認し深めるための練習問題が多数用意されている。自習できるように、奇数番号の練習問題の略解は掲載されているが、偶数番号の練習問題の解答は載っていない。そのため、講義する教員側は、偶数番号の問題を宿題として出すことができる!

🟢私の感想
 フェルミ研究所の物理学者たちも、今後発展するだろう量子コンピューティングの重要性を見据えて、若い高校生に対して、今から学ぶ機会を与えようと努力しているように感じる。大学生でも全然遅くはない。日本の大学でも、基礎的な量子コンピューティング講座として本書を教科書にできるだろう。pdf版は無償という好条件もある。あるいはすでに、そうしているかも知れない。

🟢番外編 - 圏論
 ところで、本書の図の一つに、Fig.6.6がある。これは量子ゲートX, H, Zが量子状態をどのように変えるかを示したものである。これらの関係を眺めていると、数学の圏論を思い浮かべる人もいるだろう。あまり多くはないと思うが...。そして、最近、数学者加藤文元氏による圏論の解説本が出版され、非常に好評とのことである。
 念の為ですが、上図の黄色枠の圏論らしき図は、小生が生成AIに描かせた「こんな感じだろう」というものであり、加藤氏の書籍に載っているものではありません。
 すでに、Categorical Quantum Mechanics(圏論的量子力学)というのもあるらしい。奥は深い。世の中広い。

2025年11月10日月曜日

The Evolution of IBM Quantum Hardware

IBM Quantum has taken another big step forward. In addition to the familiar Eagle R3 processor, the company has now made its latest Heron R2 processor available to Open Plan (free-tier) users. I tested the following quantum circuit on Heron R2 (ibm_marrakesh), a circuit where quantum entanglement plays a key role.

 IBM Quantumは、これまでのEagle R3プロセッサに加えて、最新機Heron R2を、Open Plan(無償)ユーザに提供を開始した。私は、以下に示した量子回路(量子もつれが重要な役割を果たしている)をHeron R2で実行してみた。

The result was astonishing! As shown in the figure, the error rate dropped to less than one-third of what I observed ten months ago when running the same circuit on Eagle R3 (ibm_brisbane). Thanks to this improvement, the success rate jumped from 86% to an impressive 96%. For users to feel this level of hardware progress firsthand is incredibly meaningful. Thank you, IBM Quantum!

 驚くべき結果であった!下図に示す通り、10ヶ月前にEagle R3プロセッサで実行した場合よりも、エラー率が1/3以下に低減した!これにより、この量子回路での正答率は86%%から96%に大幅に向上した。ユーザが、ハードウェアのこのような進歩を実感できたことの意味は非常に大きい。ありがとう、IBM Quantum!

By the way, when you look at the processor logos for Eagle and Heron, most people probably feel that the Eagle looks stronger and more powerful. But in reality, Herons are remarkably resilient and graceful. That “grace” might very well symbolize the reduction in errors. IBM really nailed the naming on this one!

 ところで、プロセッサのロゴ、ワシ(Eagle)とサギ(Heron)を比較すると、ワシの方が強そうなイメージを持つ人が多いだろう。しかし、実はサギもしなやかで強いのである。「しなやかさ」は、エラー低減を意味するのかもしれない。IBMは良いネーミングをしたものですね!

2025年11月3日月曜日

Animation of Quantum Basis Probabilities and Phases in Time Evolution

This animation illustrates the time evolution of the probabilities and phases of quantum basis vectors in quantum computing. Although it may not have particular practical significance, observing how quantum states evolve can be quite enjoyable.

As an example, the upper part of Fig. 1 shows the Tiny Mermin–Peres circuit. Using the IBM Quantum Platform’s Composer, one can obtain detailed information as shown in the lower part of Fig. 1.
In contrast, my animation in Fig. 2 shows how the probabilities and phases of each basis vector change with the application of each quantum gate (H, Z, CZ, X, CX). It’s fun just to watch how the state transforms step by step.

In principle, creating such an animation requires defining the Hamiltonian corresponding to each quantum gate and evolving the system according to the Schrödinger equation. However, performing this process precisely is quite difficult. Therefore, a simplified method was used to produce an equivalent time evolution.
Fig.2 Animating probability and phase of basis vectors 
(Approximation by time evolution method)

As a result, the final quantum state of this circuit is confirmed to be identical in both Fig. 1 and Fig. 2. Among the 16 basis vectors, eight have a probability of 0.125 (1/8), while the remaining eight have a probability of zero. The phases of the two basis vectors |0100⟩ and |1110⟩ are π (or −π), and all other basis vectors have a phase of 0.

For your reference, we have also included a heat map showing the time progression of probability and phase.

🔴日本語訳
「基底の確率と位相の時間発展アニメーションを楽しむ」
 これは、量子コンピューティングにおける基底の確率と位相の時間発展アニメーションです。特段の有用性はないでしょうが、量子状態の変遷を見て楽しめるのは良いことだと考えます。例題として、Fig.1上段に示したTiny Mermin-Peres回路を用いました。例えば、IBM Quantum PlatformのComposerを使えば、FIg.1下段のような十分な情報が得られます。
 一方、私のアニメーションFig2.では、各量子ゲート(H, Z, CZ, X, CX)の適用ごとに、各基底ベクトルの確率と位相がどのように変化するかを見ることができます。ただ眺めているだけでも楽しい!
 このようなアニメーションを作るためには、本来は、各量子ゲートに対応するハミルトニアンを設定して、それをシュレディンガー方程式に則って時間発展させるべきですが、それを厳密に行うのはかなり難しいです。ですので、ある簡易的な方法を用いて、この時間発展と同等になるようにしました。
 結論として、この回路の最終量子状態は、Fig.1とFig.2で同じであることが確認できます。すなわち、16個の基底ベクトルのうち、8個の確率はいずれも0.125(1/8)であり、残り8個の確率はすべて0です。また、2つの基底 |0100>と|1110>の位相はπ(または-π)であり、その他の基底の位相はすべて0です。
 なお、ご参考までに、確率と位相の時間推移をヒートマップで示した図も載せておきました。

2025年10月31日金曜日

Quantum Computing and Quantum Mechanics for IT Engineers

IT技術者にとっての量子Computingと量子力学

 物理や化学ではなく、ソフトウェア開発やIT技術に生きている人たちも、今後、量子コンピューティングを無視することはできないかも知れない。では、量子力学は必要なのか?Absolutely Yes!でもあり、そうではなく、Little Yes?とも言えるという。

Even for those working in software development or IT—not in physics or chemistry—it may soon be impossible to ignore quantum computing.But does that mean we need to learn quantum mechanics? The answer is both Absolutely Yes! and, in a sense, Maybe just a little yes.

Conclusion:
Take the Hadamard transform, for example. If we let the time evolution operator U(t) above proceed up to t=π/Ω, the result becomes exactly the same as applying the Hadamard gate. In other words, we no longer need to go back to the Schrödinger equation to understand it. That’s great news for IT engineers!

2025年10月22日水曜日

Bell回路の時間発展アニメーション

Time Evolution of the Bell Circuit

🔴概 要
 前報(→こちら)では、1量子ビットに対するアダマール変換が、シュレディンガー方程式を利用した時間発展と等価であることを知った。今回は、2量子ビットで量子もつれを生じさせるBell回路を対象として、同様の考察を行った。多くの量子コンピューティングの書籍では、1番目の量子ビットにアダマール変換を施し、次に2つの量子ビットにCNOTを施すと、瞬時に量子もつれ状態になると説明されている。だが、そこへ至るまでの時間発展を観察することは、量子力学を少し深く知ることに繋がり、量子コンピューティングを学ぶ上で有用であろう。

In the previous post, we learned that the Hadamard transformation applied to a single qubit is equivalent to time evolution governed by the Schrödinger equation.In this study, I extended that idea to a two-qubit system — the Bell circuit, which generates quantum entanglement.

In many quantum computing textbooks, it is explained that if we apply a Hadamard gate to the first qubit and then a CNOT gate to the two qubits, the system instantly becomes an entangled Bell state. However, observing how the system evolves in time toward that entangled state provides deeper insight into quantum mechanics itself. Such an approach can be highly valuable for anyone learning quantum computing, as it connects the abstract circuit model with the underlying physical process of quantum evolution.

🔴Bell回路の時間発展の観察
 下図の下段には、Bell回路のシミュレーションのスナップショットが示されている。左側は、アダマール変換を施した結果を、右側にはその後CNOTを施した結果である。一方、上段のグラフは、Bell回路に対応するハミルトニアンを時間発展させた結果である。シミュレーションの前半と後半に分けて、4つの基底|00>, |10>, |01>, |11>それぞれの測定確率を描いている。

 詳細は略すが、前報同様に、アダマールゲートとCNOTゲートそれぞれに対応するハミルトニアンを時間発展させている。完了時間も、前報と同様に設定されるが、ここでは、前半と後半がそれぞれ換算時間が1.0となるようにしてある。経過時間1.0では、シミュレーションの結果と同じく、|00>と|01>がそれぞれ確率0.5で出現することがわかる。また、経過時間2.0では、量子もつれを意味する結果が得られている。すなわち、|00>と|11>の確率がそれぞれ0.5に置き換わっている。
 さらに、上記のことを見やすくするために、アニメーションも作成した。
 
 なお、3-qubitがGHZと呼ばれる量子もつれに至る状況も同様に描くことができた。つまり、|000>を初期状態として、適切なハミルトニアンの時間発展で (|000>+|111>)/√2の状態に至る過程は以下のようになる。

2025年10月19日日曜日

アダマール変換のアニメーション

🔴目 的
 量子ゲートは、一部の例外を除き、ユニタリ演算(行列演算)である。量子コンピュータでは、それはどのように実現されるのだろうか。詳細レベルでそれを示すことはできないが、シュレディンガー方程式 (Schrödinger Equation)を利用すれば、その動作の流れが分かる。ここでは、最も重要な量子ゲートの一つであるアダマール(Hadamard)ゲートを例として、その動作をアニメーションで確かめてみよう。

🔴アダマールゲート
 アダマールゲートHの適用効果は、量子シミュレータや実機で見ることができる。例えば、量子の初期状態が北極の状態 |0> であるとする。それに対するアダマールゲートの適用とは、Fig.1に示した行列Hを初期状態ベクトルに掛けることである。その結果 H|0> は、ブロッホ球の赤道とX軸の正方向の交点で表される、|0>と|1>の均等な重ね合わせ状態となる。その操作は一瞬の出来事のように見える。だが、そこへ至る経過を観察してみよう。

🔴ハミルトニアンの時間発展
 実は、時間依存シュレディンガー方程式に基づいて、以下のことが広く知られている。

「量子ゲートの機能は、量子状態をある規則に従って一定時間だけ変化させることで実現される。」

 この「状態の変化の規則」を決めるのがハミルトニアンHamiltonianである。量子ゲートの世界では、量子状態の変化は、量子をある回転軸で回転させることで生ずる。その回転軸と回転の強さ(回転速度)の情報をハミルトニアンに持たせている。そして、一定時間Tは、T= π/Ωという値で決まる。このΩは、システムの駆動強度に対応する角周波数(ラジアン毎秒)である。従って、Ωの値が非常に大きければ、量子ゲートの動作は一瞬にして終わることになる。それでは、次に、この時間Tに至るまでの動作アニメーションを見てみよう。

🔴ハミルトニアンの時間発展に伴う量子状態変化のアニメーション
 上記の時間Tまでの量子状態の変化を示そう。Fig.2は初期状態 |0> の場合であり、Fig.3は |+> の場合である。例えば、<σx>は、刻々変動する量子状態におけるパウリ演算子σxの期待値(測定される固有値の平均)を意味するが、実際には、ブロッホ球上のx座標値と考えて良い。<σy>, <σz>についても同様である。
 Hamiltonian(注1)の式の右辺にある(σx + σz)/√2は、パウリ演算子だが実はベクトルとみなすことができ((注1), (注2))、回転軸の方向を指している。Fig.2では、x座標は0→1へ、z座標は1→0へ変動している。σyはハミルトニアンの式には現れないが、y座標も変動している。
Fig.2 Changes in x, y, and z coordinates when applying the Hadamard gate to the initial state |0>

Fig.3 Changes in x, y, and z coordinates when applying the Hadamard gate to the initial state |+>

 Fig.4は、Fig.2とFig.3の結果をブロッホ球上に表示したものである。これにより、アダマールゲートとは、x軸とz軸の中間45度の傾き方向を軸として、反時計回りにπ(180度)だけ回転させる機能であることが確認できた。繰り返しになるが、それは、時間発展をT=π/Ω進めた時点での状態となる。なお、回転軸を示す、大文字のX, Yはそれぞれパウリ演算子σxとσzに対応する。
Fig. 4 Display of Fig. 2 and Fig. 3 on the Bloch sphere

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(注1)少し紛らわしいが、ここでは、アダマールゲートをHとし、ハミルトニアンはHの上にハット記号を載せている。
(注2)期待値 x> = <ψ|σx|ψ>は、ブロッホ球上での量子状態 |ψ> のx軸方向の成分を表す。
(注3)パウリ演算子σx(行列)は、ブロッホ球のx軸方向の単位ベクトルでもある。これは少し紛らわしいが、量子力学では常用されていることである。
(注4)ここでは、換算プランク定数を1とする、自然単位系をつかうとする。
(注5) Fig.1は、MIT App Inventorで作られた量子回路シミュレータである。また、Fig.2〜Fig.4のアニメーションはChatGPTを利用して作成した。


2025年10月10日金曜日

量子コンピューティングExpo2025に参加

🟢概況
 量子コンピューティングExpo2025(2025年10月8日〜幕張メッセ)に参加したので、断片的だが、小生のなかに残った事柄を記録したい。例年通り、「AI・人工知能Expo」と同時開催であり、【特設エリア】生成AI Hub, Aiエージェントworldへの出展数と参加者が圧倒的に多い。だが、小生はそれにもかからわず、量子コンピューティングの見聞に徹した。IBMやGoogleという巨大量子コンピュータ企業の出展はないが、富士通や、ベンチャー、従来のIT企業の取り組みなどが見られた。出遅れないようにしたいとの気概も感じられた。

🟢量子コンピュータ(モックアップ)の展示
 今年7月末に大阪で開催されたQuantum Innovation 2025は、専門家向けだったのに比べて、今回のExpoはIT技術者や一般向けである。会場でまず目に入ったのが、産総研の「今後の1000量子ビットコンピュータのモックアップ」である。「撮影OK!」と表示されているので、多くの人が記念撮影していた。従来のコンピュータとは造りがまるで違うなあ、という印象を与えるのに十分である!

🟢会場フリーセミナー(予約不要)に人気
 展示のすぐ傍で随時行われたフリーセミナは予想外に人気があった。初日は、図の通り5件の発表があり、いずれも関心が高かったようである。

 このうち、(株)Quemixという会社の「量子コンピュータの使い所とユースケース」は、とても良かった。材料計算、機械学習などに、従来のスーパーコンと量子コンピュータを連携して取り組む説明だが、これはすでに小生のブログ記事に書いたアルゴリズム(古典・量子ハイブリッド)VQA(Variational Quantum Algorithm)そのものではないのか!だから、素直に頭に入ってきた。さらに、その場合、古典データから量子状態への変換、および量子状態測定結果の取り出しの効率化が課題であるとの説明にも大いに納得できた。

🟢量子機械学習への取り組みの展示
 従来のIT企業、ソフトウェア会社でも、遅れを取らないようにと、機械学習への量子コンピューティングの適用を試みる展示もあった。たとえば、量子SVM(Quantum Support Vector Machine)を展示している会社があった。小生は、これに関してはこのブログ記事にも書いているので、自然にバンバン質問することができた。話しが深まり、「これ以上の説明には社長を呼んできます」というところまで行った。現状では、量子状態シミュレータで検討しており、量子コンピュータ実機では確認できていないとのことであり、これも大いに納得。量子コンピュータ実機でのFeature MappingとQuantum Kernelの計算にはまだまだ課題があるはずだ。

🟢藤井啓祐教授とQuEra北川拓也氏の対談
 これは、予約制のセミナーである。実際の内容は、量子コンピューティング界では誰もが知るお二人の対談(45分)だった。朝10:00開始なのに、およそ400席くらいの会場は満席だった。Webではなく、目の前でリアルに聞くと何かが違う!以下、全く断片的だが、思い出した項目を列挙する。(不正確な点があればご容赦ください。)    

  • 2014年に、量子コンピュータが誕生した。それ以降、超伝導方式が引っ張ってきた。現在は、それを含めて5つの方式が進行中。
  • 現在の「実験科学」は、「計算科学」へ移行する。量子コンピュータ自体が物理実験装置になる。特に化学計算分野。新しい触媒の発見や電池開発に注目。
  • AIが勝手に計算する時代になってくる。
  • 日本は、米国に次いで、ユースケースの発表が多い。また、NEDOでは懸賞付きCHallenge(コンテスト)も開催している。
  • 科学、ビジネスもいいが、これまでにないようなゲームも期待できる。パソコンの黎明期もゲームが引っ張ってきたと言える。それと同じかも。ユーザコミュニティQPARCも作られている。
  • Youtubeの量子コンピューティング解説が従実している。ぜひ、活用すべき。以前は、技術的に疑問符がつくもの多かったが、最近の例えば、ショアの因数分解などで、素晴らしい物がある。そのまま大学の講義になるほどである。
  • IT企業にも、物理系出身の人が意外といるものだ。そういう人を中心に、量子コンピューティング勉強会をやってはどうか。
  • 実際に動く量子コンピュータは100年経ってもできないと言われていたが、10年ですでにここまできている。ここ数年は、100〜200量子ビット構成で止まっているように見える。1000量子ビット機も発表されているが、稼働状況は不明な点が多い。
  • それは誤り訂正技術の進展を待っているためとも思える。
  • 現状では0.1〜1%程度の誤りが発生する。それを緩和する訂正技術も進んでいる。その技術の基本はパリティチェック(多数決で判断)に根ざしているように見える。
  • 30件を超える質問がwebで寄せられており、参考になった:「量子コンピュータの誤作動は、宇宙にコンピュータを置いたら?間違える理由の解消として摩擦、熱、重力とか解決できたりしないの?」、「文系の人でも量子コンピュータについて学ぶには、どのような所から勉強すればよいでしょうか?」、「IBMが野心的なロードマップを出していますが、どのように見られていますか?」、「NISQの範囲で世の中のビジネスにインパクトを与えるものってどんなものがあるのでしょうか?具体的なイメージがわかず、、、」等々。

🟢冷却原子方式(中性原子方式)
 量子コンピュータハードウェアとして、IBMやGoogleは、長らく超伝導方式で実績を重ねてきたが、近年冷却原子方式も台頭している。上記のQuEra(北川拓也氏)は、すでにこの方式の実機を完成させ、研究用に産総研に納めたことで有名である。会場で、この方式に関する説明小冊子が配布されていた。現状と可能性を知るのに有用だ。


---- 会場を歩き回ると疲れてくる -------
Night view near the conference venue (the night after Typhoon 22 passed)

2025年10月3日金曜日

Schrödinger Equation and Quantum Computing

Questions About Quantum Computing

As you progress in your study of quantum computing, the following questions will likely arise. This article explores these points in more detail.

  1. In most books and resources on quantum computing, the Schrödinger equation—which forms the foundation of quantum mechanics—rarely appears explicitly. Why is that?

  2. In quantum circuits used to implement quantum algorithms, the order in which quantum gates are applied is crucial. But is it really acceptable to ignore the execution time of each quantum gate?

    ---> For more information, please see this pdf file.