量子コンピューティングに関する入門書はかなり多くなってきた。日本語の本は少ないが、洋書はそうなっている。最近、下図の書籍を購入した。K-12(高校生)向けとされているが、大学生にも十分読み応えがあり、しっかりと基礎を築ける書籍である。もちろん、情報系の大学教員にも間違いなく有用と感じたので、簡単に紹介したい。
C. Hughes, J. Isaacson, A. Perry, R.F. Sun, J. Turner, Quantum Computing
for the Quantum Curious, Springer, 2021.
🟢ハードカバーのカラー版はAdmazonなどで購入できる。(¥7,300)
🟢無料の完全なpdf版も提供されている。上図の左下隅に「Open Access」との表示がある!いくつかのサイトからダウンロードできるが、AmazonからKindle版も無償で入手できる。
いくつか特徴を挙げる。
(1)量子力学の観点を重視
著者は、Fermi National Accelerator Laboratory(米国フェルミ国立加速器研究所)の物理学者たちである。それだけに、量子コンピューティングを単なる計算の世界とせず、量子力学の観点を丁寧に説いている。しかし、それを高校数学を習得していれば分かる程度の数式で説明している。
(2)量子物理実験をシミュレーションで
例えば、最も基本的な事項であるSuperposition(量子状態重ね合わせ)は、物理的にはどのように作られるのか。それを、Beam Splitterや、有名なStern-Gerlachの実験で見せている。それらの多くは、英国のSt. Andrews大学が提供している量子力学シュミレーションツールで確認できるようにしている。Entanglement(量子もつれ)についても同様である。
また、楽しく学べそうな、FermilabによるK12向けチュートリアルにも言及している。
量子力学の基本概念を理解した後、基本的な量子アルゴリズムに取り組む。Quantum Cryptography(量子暗号)、Quantum Teleportaton(量子テレポーテーション)、Deutsch-Jozsaアルゴリズムなどである。ただし、K12向けなので、位相推定(QPE)や量子フーリエ変換(QFT)などは含まれない。したがって、これらを利用するショアの因数分解なども、この先のレベルの問題として残されている。
このような順で理解を深める。手計算は特に重要である。その後のシミュレーションは上記(2)で述べた環境を利用する。だが、いくつかは、IBM Quantumコンピュータ実機も使う。Pythonなどのプログラミングは不要である。IBM Quantum Composerという、ビジュアルでインタラクティブな実行環境を使うからである。実機で動かすことは、シミュレーションではない、リアルな物理現象を再現することになるので、大いに意味がある。
ブックカバー、全体のデザインも美しい。洋書としては珍しく薄い書籍(全150ページ)である。だから、ためらわずに手に取り、学ぼうとする人が多いだろう。中身は、上に述べた通り、コンパクトな英語でとても充実している。各章毎に、理解を確認し深めるための練習問題が多数用意されている。自習できるように、奇数番号の練習問題の略解は掲載されている。だが、偶数番号の練習問題の解答は載っていない。そのため、講義する教員側は、偶数番号の問題を宿題として出せば良いのである!



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