🔴目 的
量子ゲートは、一部の例外を除き、ユニタリ演算(行列演算)である。量子コンピュータでは、それはどのように実現されるのだろうか。詳細レベルでそれを示すことはできないが、シュレディンガー方程式 (Schrödinger Equation)を利用すれば、その動作の流れが分かる。ここでは、最も重要な量子ゲートの一つであるアダマール(Hadamard)ゲートを例として、その動作をアニメーションで確かめてみよう。
🔴アダマールゲート
アダマールゲートHの適用効果は、量子シミュレータや実機で見ることができる。例えば、量子の初期状態が北極の状態 |0> であるとする。それに対するアダマールゲートの適用とは、Fig.1に示した行列Hを初期状態ベクトルに掛けることである。その結果 H|0> は、ブロッホ球の赤道とX軸の正方向の交点で表される、|0>と|1>の均等な重ね合わせ状態となる。その操作は一瞬の出来事のように見える。だが、そこへ至る経過を観察してみよう。🔴ハミルトニアンの時間発展
実は、シュレディンガー方程式に基づいて、以下のことが広く知られている。「量子ゲートの機能は、量子状態をある規則に従って一定時間だけ変化させることで実現される。」
この「状態の変化の規則」を決めるのがハミルトニアンHamiltonianである。量子ゲートの世界では、量子状態の変化は、量子をある回転軸で回転させることで生ずる。その回転軸と回転の強さ(回転速度)の情報をハミルトニアンに持たせている。そして、一定時間Tは、T= π/Ωという値で決まる。このΩは、システムの駆動強度に対応する角周波数(ラジアン毎秒)である。従って、Ωの値が非常に大きければ、量子ゲートの動作は一瞬にして終わることになる。それでは、次に、この時間Tに至るまでの動作アニメーションを見てみよう。
🔴ハミルトニアンの時間発展に伴う量子状態変化のアニメーション
上記の時間Tまでの量子状態の変化を示そう。Fig.2は初期状態 |0> の場合であり、Fig.3は |+> の場合である。例えば、<σx>は、刻々変動する量子状態におけるパウリ演算子σxの期待値(測定される固有値の平均)を意味するが、実際には、ブロッホ球上のx座標値と考えて良い。<σy>, <σz>についても同様である。 Hamiltonian(注1)の式の右辺にある(σx + σz)/√2は、パウリ演算子だが実はベクトルとみなすことができ((注1), (注2))、回転軸の方向を指している。Fig.2では、x座標は0→1へ、z座標は1→0へ変動している。σyはハミルトニアンの式には現れないが、y座標も変動している。
Fig.3 Changes in x, y, and z coordinates when applying the Hadamard gate to the initial state |+>
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(注1)少し紛らわしいが、ここでは、アダマールゲートをHとし、ハミルトニアンはHの上にハット記号を載せている。
(注2)期待値 <σx> = <ψ|σx|ψ>は、ブロッホ球上での量子状態 |ψ> のx軸方向の成分を表す。
(注3)パウリ演算子σx(行列)は、ブロッホ球のx軸方向の単位ベクトルでもある。これは少し紛らわしいが、量子力学では常用されていることである。
(注4)ここでは、換算プランク定数を1とする、自然単位系をつかうとする。
(注5) Fig.1は、MIT App Inventorで作られた量子回路シミュレータである。また、Fig.2〜Fig.4のアニメーションはChatGPTを利用して作成した。
この記事、「単なるアダマール変換のアニメーションではないか?」と言われそうな気がしていましたが、Linkedinでは、"Fascinating work!"とか、"Thank you - very informative."とのコメントもあったので、少し安心?しました。
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