【要旨】予告通り本日(現地時間 2024-5-15)、IBM Quantum Labのサービスが停止。これまでWeb上でQiskitコード(with Python)で量子回路を編集し、シミュレータや実機で実行できた環境がなくなってしまった!そのかわり、従来のComposerと呼ばれるビジュアル量子回路編集のサービスの質向上が図られた。そこから、実機で実行することもできるので、全体としては、ユーザサービスは向上したと言える。
🔴IBM Quantumからのアナウンス
図1に示す通りだが、アナウンスはこのサイトの中にある。今後は、Qiskitコード編集、および実行環境はユーザ自身がローカルマシンに構築しなければならない。Webでのサービスは終了したのである。量子コンピュータハードウェア開発競争が激化し、IBMもハードウエア開発により注力するためらしい。
Qiskitで作成した量子回路は、ユーザのローカル環境からもIBM Quantumマシン実機で実行できるので、中級以上のユーザには特に問題ないであろう。一方、初級ユーザ(および中級ユーザ)は、従来のビジュアル型のComposerが利用でき、今回はそのサービス内容もかなり向上したようである。
🔴新しいIBM Quantum Composerを使ってみる
前向きに捉えて、新しくなったComposerを使ってみた。簡単な例題として、先のポストで示した「位相キックバックの量子回路」を使う。図2上部のように、量子回路の編集において、その各フェースで、確率振幅と位相を分かりやすく円盤で表示できる。また、図2下部に示すように、基底ベクトル毎の確率計算結果も表示される。
このようにビジュアルに編集した量子回路に対して生成されるQiskitコードも見ることができる。図3にそれを示す。このコードをコピーして、自分のQiskit環境で使うこともできる。そして、注目すべきは、この画面から、IBM Quantumマシン実機で実行させることができることだ。特に嬉しいことに、利用可能なマシンそれぞれの混み具合(キューに何個のジョブが実行待ちか)を確認できるので、早く実行できそうなマシンを指定できる。性能(誤り発生率など)指標も表示されるので選択の参考にもなる。
今回は、ibm_brisbaneという名称のマシンを指定したところ、まもなく実行された。実行結果として、1024ショット(デフォルト試行回数)のうちの、各基底ベクトルの出現頻度(Frequency)がヒストグラムで表示される。
ここで良いことがある。この実行の結果、基底ベクトル|01>の頻度は図4の通り、94%であった。本来は、図2に示した通り、この頻度は理論計算上100%のはずだが、実際のマシンでは、このように数%程度の誤差が生ずる。
もう一例示そう。図5は、3-qubitの強い量子もつれを起こすGHZと呼ばれる量子回路である。そのシミュレータ(小生自作のアプリ)とQuantumマシン実機(ibm_brisbane)の結果も図4の場合と同様に若干の差異が生じている。理論計算では、右側のシミュレータが示す通り、基底ベクトル|000>と|111>以外の基底ベクトルの頻度はゼロになるはずである。
現状の本物の量子コンピュータとはこういうものである。それを実感することはとても重要なのではないか。現在の量子コンピュータ開発競争ではこのような誤差の低減を目指しているのだが、量子物理の世界はそういうものだ、として受け入れて利用したいという気にもなる。もちろん、幾つか分野の数理アルゴリズムでは、このような少しの誤差も許容できない場合があることも事実だ。
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