2024年2月9日金曜日

多様体の基礎

 突然だが、私は何十年も前に、理学部数学科を卒業した。その後はコンピュータメーカの研究所でのソフトウェアの研究開発、さらに大学での教育に従事して、現在は退職している。かっての数学科での学びのうち、多様体はごく入口のところしかやっていなかった。当時は(私にとっての)適当な参考書がなく、先生の板書を追うしかなかった。もちろん、よく理解できたとは言えなかった。それでも購入した書籍は、松島与三著「多様体入門(旧版)」であったが、これが、とてつもなく難しい。だから、その後は放ってあった。

 退職後は、趣味として、量子コンピューティングという、かなり現実的なことに日々取り組んでいる。量子コンピューティングは量子物理を抽象化したものであろう。しかし、多様体論は(他の高度な数学もそうだが)、これとは比べられないほど抽象度の高い世界である。精神の世界である。なぜ、今更多様体を持ち出すのか、自分でもよく分からないが、そういう世界に入りたいという思いが強くなってきただけである。かって、ポントリャーギン著「連続群論」のほんの入口だけだが、それを読んで、そういう、精神の世界があることを知り感動した。ポントリャーギンは14歳で視力を失っていたロシアの大数学者であった。目の見えない人が、ここまで頭の中で、こんな数学の世界を作り上げられるのかという驚きであった。

 最近のことである。依然として難しいことには違いないが、それでも懇切丁寧で、読者への配慮が十分に行き届いているとの評判の、松本幸夫著「多様体の基礎」があることを知った。出版は1988年であるから、36年ほど経過しているのだが、名著と言われる。これを購入した。どう進めるのか、分からないが時間は十分あるので、一歩一歩取り組むのが楽しみである。その際は、一時的にパソコンもスマホも片付けてしまい、別世界へ行きたい。ただ、そういう世界であっても、人間は具体的イメージを求めるのが常である。そうなると、やはり、パソコンやスマホの支援アプリの出番があるかも知れない。そういう域に達するならば、それはまた嬉しい。


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