その後[補足1][補足2]][補足3]説明を追加した。2023-05-01
■Quantum Clock
これは、全くヘンテコな時計だ。見ることも、何時かを聞くこともできない。できるのは、例えば、"12時ですか?”のように問うことだけである。その答えは、"はい、12時です"、または、"いいえ、6時です”のいずれかになる。Fig.1で簡単に説明する。"12時ですか?”の答えが来た後に、再度同じ質問をすれば、全く同じ答えが返ってくる。すなわち、2回とも、"はい、12時です"、となるか又は2回とも、"いいえ、6時です”のいずれかとなる。だが、2回目の質問を、"3時ですか?”に変えると、その答えは、"はい、3時です"、か又は、"いいえ、9時です”のいずれかになる。
この量子時計なるもの、何かの役に立つのか?Yesなのである。この後に示す「電子のスピン」や「光子の偏光」を測定する場合と全く同じなのである。すなわち、"XX時ですか?" は、量子をXX方向で測定することに相当するのである。
■電子のスピンの測定(measuring spin of electrons)
古典ビットには、"測定"という概念はない。だが、量子ビット(qubit)は、測定することによってはじめてその値が決まる。有名なStern-Gerlachの実験を模倣した、電子のspinの測定イメージをFig.2に示す。測定装置(apparatus)の向きが重要であることを示したものだ。
この状況を説明する数学モデルをFig.3に示す。図は連続して計測するケースだが、その向きが異なる場合を説明している。測定器の向きとそれに対応する順序付き正規直交基底(ordered othonormal bases)の関係は、量子コンピューティングのおける最も重要な基本事項の一つであろう。■光子の偏光の測定(measuring polarization of photons)
光子の偏光を測定する場合、上記のStern-Gerlachでの磁石を用いた測定器に相当するのが偏光板(polarizing filter)である。特に注目に値するのは、Fig.4の(b)の2枚の偏光板(0°と90°の)の場合よりも、(c)の3枚偏光板の方がより多くの光を通すことだ。通常のフィルタの常識とは逆の結果なのである。
Fig.4の状況も、Fig.5に示す数学モデルで明快になるのである。この場合も、偏光板(Polarizer)の向きに対応する順序付き正規直交基底で説明できる。■補足1(偏光板の軸の傾きと順序付き正規直交基底)
例えば蛍光灯からは、毎秒10の20乗個の光子(光の最小単位)が放出される。光子ひとつづつが、それぞれランダムな方向に波打って進む。その波の傾きが、偏光板(フィルタ)の軸の傾きと一致すれば、その光子は偏光板を確実に通過する。一方、両者の傾きが直交する場合は、光子は通過できず確実に吸収される。では、それ以外の傾きの光子はどうなるのか?それを説明するのが、上記Fig.5なのである。偏光板の軸の傾きに対応した、順序付き正規直交基底(以後、単に基底と呼ぶ)は以下のようになる。その導出計算はここでは略す。
基底の1番目のケットベクトルは偏光板の軸の傾きに対応し、2番目のケットベクトルは偏光板の軸に垂直な傾きに対応する。偏光板に向かってくる光子は、これら2つのケットベクトルの線形結合になっていると考える。そして、偏光板で見る(光子を計測する)時、光子が偏光板を通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗となる。通過しない確率は2番目のケットベクトルの係数の2乗となる。これら2つの確率の和は1.0となる。これが要点である。
例えば、Fig.4とFig.5の(c)のケースでは、1枚目の偏光板を通過した光子は全て、基底Aの1番目のケットベクトルになっている。それを2枚目の偏光板で測定する場合には、光子は基底Bの2つのケットベクトルの線形結合となる。したがって、基底Bでの測定で光子が通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗、すなわち、0.5になる。3枚目の偏光板についても同様である。結論として、1枚目の偏光板を通過した光子が3枚目まで通過する確率は0.5x0.5=0.25となる。したがって、(c)の図のようにある程度の明るさでものが見えるのである。
■補足2(追加実験)
最後に、念のためFig.6に示す追加実験を行った。つまり、Fig.4 (c)の実験で使った3番目の偏光板の向きを、2番目と同じく45度に揃えた。すると、順序付き正規直交基底が2番目と3番目の偏光板とで同一になる。そのため、1番目の偏光板を通過した光子の半数が2番目の偏光板を通過し、それらの光子が全て3番目の偏光板をそのまま通過したのである。その結果、(d)に示す通り、(c)の場合よりも明るく見えることが確認できた。
■補足3(過去のブログ記事)
本件に関しては、過去に同様の記事(こちら)を書いた。武田俊太郎氏の解説に基づいたものである。今回の記事は、数学的にやや厳密になっている。
さらなる詳細は、Prof. Bernhardtの書をご覧いただきたい。緻密でわかりやすい叙述のおかげで、一定の持続力があれば、上記3件の"測定"を十分に理解できるはずである。なお、Fig.1〜Fig.6は本書には掲載されていない。いずれも、小生の理解を明確にするために自作したものである。
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