2022年10月5日水曜日

ノーベル物理学賞2022の量子理論を高校数学で学ぶ

 今年のノーベル物理学賞は、昨日(2022-10-04)ノーベル財団から発表されました:

 The Nobel Prize in Physics 2022 was awarded jointly to Alain Aspect, John F. Clauser and Anton Zeilinger "for experiments with entangled photons, establishing the violation of Bell inequalities and pioneering quantum information science"
(2022年のノーベル物理学賞は、アラン・アスペクト、ジョン・F・クラウザー、アントン・ザイリンガーの3人が共同で受賞した。"もつれた光子の実験、ベル不等式の違反の確立、量子情報科学の先駆的な業績" - DeepL翻訳による- )

量子情報科学のpioneering
 と書かれていますので、情報工学に関わる人であれば、その知識を得たいと考えるでしょう。私もその一人です。

高校数学で量子コンピューティングを学べる本
 Fairfield大学の数学者 Prof. Chris Bernhardtが書いた「Quantum Computing for Everyone」という書籍で勉強中でした。彼は、数学者として、高校数学の範囲でできるだけ明快に量子コンピューティングを解説する、それには、数式は欠かせない、という方針を貫いています。
The goal is not to give some vague idea of these concepts but to make them crystal clear.
(目標は、これらの概念について漠然とした考えを与えることではなく、非常に明確にすることです。)

 この書籍の主要部は、下図にある通り、ノーベル賞説明にある「 entangled」と「Bell inequalities」などです。第4章 Entanglement(量子もつれ)や第5章 Bell's Inequality(ベルの不等式)が目次にあります。実際、上記の方針どうり、高校数学で分かる数式を用いて、厳密に、簡潔に、丁寧に書かれていて、感心するばかりです。
 量子コンピューティングに関する教科書は他にも優れたものがいくつか出版されていますが、Chris によるこの書籍は、それらの中でも、簡潔さ、一貫性、数式による明快さにおいて、非常に優れていると感じます。また、平易な英文に徹しているところも嬉しいです。ということでご紹介しました。

高校数学で説明できるのですか?
 ごもっともな質問です。YesでもありNoでもあると思います。
 Yesとは、実際にEntanglement(量子もつれ)とBell不等式については、本質的なところ基本的なところは高校数学の範囲の数式で明快に説明していると思います。

 Noとは、それでも限界があるようです。というのも、著者はこの本では実数の世界で話を展開しています。普通に考えれば、量子力学の世界は複素数の世界ですね。彼は数学者ですから、そこは十分に考慮した上で独自の説明をしていると思います。実際、例えば、ショアの因数分解アルゴリズムもこの本の最後の方に出てきますが、そこも実数の世界で、"taste"を解説するに留めています。そして、これより深くは、複素数を扱うさらに上位のテキストで学んでほしいとしています。

 しかしながら、量子コンピューティングに携わる一般的なソフトウェア技術者に必要な量子力学の基礎知識は、実数の世界で十分身に付けられる。その実数世界において、きちんと数式を使ってクリアに説明を尽くすという考えだと思います。その通りになっているので大いに感心します。

このChris Bernhardt著に関する情報
彼のwebサイトに本書に関する幾つかの有用な情報が載っています。

(1)  Quantum computing in 10 minutes
 10分で分かってもらえるかわからないが、ともかく書いてみました。という本書全194ページをまとめた資料。

(2) Short intro to IBM quantum computer
 本書は数式で概念を明確にすることに徹しているのだが、この資料は、それらをIBM Quantumマシンで確かめるための短い手引き。これも有用だ!

(3) そして、執筆意図などについて、著者がインタビューに答えるpodcastもある!

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