この記事は、これから「量子コンピュータ」を学ぼうとしている人に、何らかの参考にして戴けるかもしれないと思って書いています。
私には夏休みはない。すでに退職しているからだ。しかし、世の中の夏休みと言われる期間に、学生諸君と同じように、少し纏まった何かに取り組んでみたい。私の場合、それは「量子コンピュータ」と決めた。量子力学の素養はほとんど無いのだが、(何十年も前に)大学で数学を学び、その後、民間企業の研究所と大学においてコンピュータソフトウェアを相手にしてきた経験は、何らかの力を与えてくれそうではある。
ともかく、量子の振る舞いは、我々の日常の経験からはまるで外れている。どの本にもそう書いてある。だから頭を柔くして、取り組んで行かねばならぬ。その意識を持ち続けるため、それを象徴するちょっとしたマスコット(イメージキャラクタ)を机上に置きたい。しかし、適当なものが見つからないので、図1のように自作した。ブロッホ球上に、(量子コンピュータにおいて最も肝心な)量子ビットの重ね合わせ状態をイメージしたものだ。そして、その支柱には、シュレーディンガーの波動方程式をとりあえず(写経の如く)書いてみた。一見、こけしに似ているがまるで違う。
私は今年(2022年)の春ごろから量子コンピューティングに入門したのだが、最初に雑誌①インタフェース誌の大特集記事で学んだ。これは、理論はともかく、まず、実際に量子コンピューティングをPythonでやって見るというのが主体だ。これによって、私の中では(特に量子アニーリングが)かなり進んだ。一般的には、基礎から順々に積み上げて学ぶのが王道ではある。しかし、まず体験し、それで得られたものを増幅させるため、改めて概念を見直し、基本事項を詳しく再確認するというやり方も悪くはないのではなかろうか。
理論や技術よりも、むしろどのような考え方なのかを説いている書籍、⑥、⑧、⑨は多くの人々にとって有用だ。村上憲郎著⑥「クオンタム思考」は、②「量子コンピュータを理解するための量子力学超入門」の入門にもなっている。西森秀稔他著⑧「量子コンピュータが人工知能を加速する」は、特に、量子アニーリングのための優れたイントロダクションだ。小林雅一著⑥「ゼロからわかる量子コンピュータ」は、開発の経緯や業界の最新技術動向も非常に詳しい。
図2の9冊の中では、②「量子コンピュータを理解するための量子力学超入門」と、渡辺靖志著④「入門講義量子コンピュータ」を読むことが今回の目標である。ともに、シュレーディンガー方程式も易しめに扱い、量子ビットの操作や計算法も丁寧だ。しかしながら、実は、それよりもさらに平易な、湊雄一郎著③「いちばんやさしい量子コンピューターの教本」や宇津木健著⑤「絵で見てわかる量子コンピュータの仕組み」も気になる。
実際、宇津木健著⑤は、なかなか優れた本だ。タイトルに「絵で見てわかる」とあるので、表層的な大衆向け解説本かと思われたが、全然違う。数式は確かに使っていないのだが、量子コンピュータの基本要素が平易に、しかも詳しく説明されており、だいぶ深い所まで行けそうな感がある。さらに素晴らしいと思ったのは、この書籍を買った人には、「絵と数式でわかる」という付録のpdf("数式"が追加されていることに注目)が提供されることだ。この20ページほどのpdfには、ディラックのブラケット記法、重ね合わせ状態、ブロッホ球、測定確率、複数量子ビット(テンソル積)、量子ゲート、量子もつれ状態の射影測定、等々が、数式で簡潔に説明されている。書籍本体の説明において(平易さゆえに)精密さに欠けた部分を良く補っているのである。いきなり数式が出てくるのとは逆であり、理解が深まる。この書籍はぜひ、完読したいものだ。
一般的な言い方では(異論もあるが)、量子コンピュータには、ゲート型とアニーリング型がある。現時点での実用という面では、アニーリング型が先んじている。量子現象を実際に利用したマシンの他にも、先端半導体技術によって擬似的に量子アニーリングの仕組みを実現したマシンも盛んになっている。一方のゲート型の方は、まだまだ実用化には至っていないが、研究開発と応用の試行はますます加速していることは間違いない。先の国際会議Q2B22報告にも書いた通りである。近い将来、これに追随していくためにも、上で述べたような量子に関する基本知識の修得は不可欠のように思えるのだ。
「夏休み」という響き、ああ、古き良き学生時代...
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