2022年5月24日火曜日

されど、巡回セールスマン問題(量子アニーリングの場合)

 TSP(巡回セールスマン問題)に対しては、従来コンピュータを利用した優れた解法が研究し尽くされたようです。しかし、これは、量子アニーリングの例題として有用なのでメモしておきます。ディープラーニングでのポピュラーな例題MNIST(手書き数字認識問題)に匹敵するくらいかも知れません。

従来コンピュータを用いたTSP解法の状況
 よく目にする記事「30都市でも、現在のスーパーコンでは8億年かかるが、量子コンピュータなら一瞬」というのは、妥当性に欠けます。8億年というのは、特に工夫せずに総当たりの探索を行った場合でしょう。また、量子コンピュータで解ける、と言っても(量子トンネル効果で局所解を回避するとはいえ)一般には最適解が得られるとは限りません。

 現状のTSP解法の集大成は、Waterloo大学のProf. William CookによるConcorde TSPにあります。多様なアルゴリズムの構成で作られたソフトにより、実問題の85,900都市(VLSI応用)が解かれていますし、この名前のアプリも一般公開されています。これを使って、旧型のiPadでも、500都市が15秒で解けました。ですから、当面はTSPに関しては、量子コンピュータの出番は無さそうです。しかし、冒頭に述べた通り、良い例題として以下に検討します。

量子アニーリングを用いたTSPの解法
 量子アニーリングによる解法の要点は以下に示す通りです。解法と言っても、「解法アルゴリズム」は与えません。コスト関数と制約条件を与えるのみです。ここに最大の特徴があるでしょう。(さらに詳細が必要な場合は、以下に示したURLを参照下さい。)

 これだけで十分良い解が得られることもありますが、コスト関数に加える制約条件の強さを(係数を掛けて)調整する必要がある場合もあります。さらに、コスト関数の縮小、回転対称性の除去、反転対称性の除去などの高度な修正を要する場合もあるようです。

例題:東京都中央区の公園56ヶ所を回るTSP
 この公園56ヶ所の例題を、あるTSPソルバーで解き、実際にそのルートを全部歩いた報告があります。詳細は、図1に示したURLをご覧下さい。「最短経路だ!巡回セールスマン問題の研究ってすごいなあ」を実感するためとのことです。素晴らしい行動力!「楓川久安橋公園」を出発して、公園56ヶ所を約6.9時間かけて完歩したとのことです!計算上の所要時間と実際の歩行時間の比較などもなされています。


 これと同じ条件設定で、上述の量子アニーリングで解いた結果を図2に示します。最適解(最短)かどうかは分かりませんが、図1の結果とほぼ一致したルートが得られました。実際には、上述のコスト関数と制約条件を、Fixstars Amplify SDKの関数などを使って表現しました。ただし、公園間の距離は、実際の道路経由ではなく、直線距離で代用しています。
 ここでは、量子アニーリングを用いた基本的な利用を示しました。高度なチューニングは含めていませんが、もっと大規模な実用問題では、それらも検討することになるでしょう。本記事はそのきっかけにはなると思います。

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