前回、「量子機械学習」で、IBMの認定資格(Intermediate)を取得しました。(→こちらの記事です)今回は、「変分アルゴリズム設計」という認定資格(Advanced)です。下記URLのとおり、今回のチュートリアルは、量子力学の色彩が少し濃くなっています。分量も多く、難易度も高く感じられましたが、1週間ほど籠って学び受験しました。何とか合格しました!
🟢IBMチュートリアル:変分アルゴリズム設計
量子力学を基盤とした理論が中心ですが、シミュレータやIBM Quantum 実機で例題も動かしながら進めます。最後の方の例題(VQE、VQDなど)のいくつかは実機でsessionを使うため、Open Plan(無料)では動かせません。しかし、その部分は説明を理解するだけで十分かと思います。
🟢資格認定バッチと認定証
🔴変分量子アルゴリズム(VQA:Variational Quantum Algorithm)の意義
先日、理研のスパコン(富岳)とIBMの最新QuantumマシンHeronの連携のニュースがありました。そこでの有力なアルゴリズムの枠組みが、今回のVQAです。化学計算や組み合わせ最適化などを、既存のスパコンと量子コンの連携で解くための実用的な方法とされています。下図は、このニュース記事と今回のチュートリアルをもとに作成した私のオリジナル作品です!なので、©も宣言しています!
化学の電子構造問題や組み合わせ最適化問題では、それぞれ特有のハミルトニアン(エネルギー演算子)の期待値が最小となる量子状態を探す(=基底状態エネルギーを得る)ことが求められます。これを、スパコンと量子コンの連携で解きます。ワークフローは図の通りですが、要点は、スパコン側は、量子コンが推定したハミルトニアンの期待値を受け取り、目的の基底状態エネルギーへ向けた最適化を図ります。一方、量子コンは、スパコン側が用意したAnsatz(パラメータ化された量子回路)を測定し、ハミルトニアンの期待値を推定することに徹します。
この構成は、古典ニューラルネットワークを想起させます。スパコン側で設定するAnsatzは、ハミルトニアンに適合したネットワーク層の構成とニューロン数を決めることに相当し、そこに含まれるパラメータは、辺の重みとバイアスに相当すると考えられます。このパラメータは、通常、Ansatzを構成する量子ゲート(回転ゲート)の角度です。
基底状態エネルギーへ向けた最適化では、コスト関数(=期待値)のパラメータに関する微分が必要なはずですが、量子コン側での微分は負担も大きく、ノイズの影響を受けやすいので、現実的ではないようです。そこで、スパコン側の最適化は、通常、gradient-freeな方法で(つまり、量子コン側に勾配を要求しないで)行われます。なお、スパコン側は、このようなワークフローを、多数のパラメータ初期値を用意して並列に実行(マルチスタート)できます。ただし、量子コン側はどの程度マルチで走れるのかはまだよく分かりませんが。
🔴VQAが量子コンピューティングの全てではない
この枠組みは、"Quantum-Centric Supercomputing"と呼ばれています。しかし、上の図を眺めていると、「頭脳は従来のスーパンコンで、量子コンはこれまでにない驚異の物理実験装置」のように見えます。一方、量子コンピューティングの他の分野、例えば、量子暗号通信や量子機械学習などの発展も大いに期待されています。このような情報科学寄りの問題では、ハミルトニアンとは直接関係しない技法(確率振幅の増幅や位相推定など)が使われます。真に量子コンピュータに向いた問題は何なのかが、だんだん見えてくるのかも知れないです。