2023年4月28日金曜日

"Quantum Computing for Everyone" 再訪1-測定と基底

[要旨]数ヶ月前に、"Quantum Computing for Everyone" by Prof. Chris Bernhardtを、最後まで読み終えた。だが、そのままにしておくと記憶が薄れてしまうので、再度最初から学び直し、頭に定着させることにした。前回見落としていたこと、新たに分かったことも出てきた。名著であることを再認識している。本記事では、(量子もつれの前段の)電子のスピン、光子の偏光、量子ビット、順序付き正規直交基底、重ね合わせ、測定の考え方等を、独自のイラスト中心にまとめて復習とした。(続編も書く予定である。)

その後[補足1][補足2]][補足3]説明を追加した。2023-05-01

Quantum Clock
 これは、全くヘンテコな時計だ。見ることも、何時かを聞くこともできない。できるのは、例えば、"12時ですか?”のように問うことだけである。その答えは、"はい、12時です"、または、"いいえ、6時です”のいずれかになる。Fig.1で簡単に説明する。"12時ですか?”の答えが来た後に、再度同じ質問をすれば、全く同じ答えが返ってくる。すなわち、2回とも、"はい、12時です"、となるか又は2回とも、"いいえ、6時です”のいずれかとなる。だが、2回目の質問を、"3時ですか?”に変えると、その答えは、"はい、3時です"、か又は、"いいえ、9時です”のいずれかになる。
 この量子時計なるもの、何かの役に立つのか?Yesなのである。この後に示す「電子のスピン」や「光子の偏光」を測定する場合と全く同じなのである。すなわち、"XX時ですか?" は、量子をXX方向で測定することに相当するのである。

電子のスピンの測定(measuring spin of electrons)
 古典ビットには、"測定"という概念はない。だが、量子ビット(qubit)は、測定することによってはじめてその値が決まる。有名なStern-Gerlachの実験を模倣した、電子のspinの測定イメージをFig.2に示す。測定装置(apparatus)の向きが重要であることを示したものだ。
 この状況を説明する数学モデルをFig.3に示す。図は連続して計測するケースだが、その向きが異なる場合を説明している。測定器の向きとそれに対応する順序付き正規直交基底(ordered othonormal bases)の関係は、量子コンピューティングのおける最も重要な基本事項の一つであろう。

光子の偏光の測定(measuring polarization of photons)
 光子の偏光を測定する場合、上記のStern-Gerlachでの磁石を用いた測定器に相当するのが偏光板(polarizing filter)である。特に注目に値するのは、Fig.4の(b)の2枚の偏光板(0°と90°の)の場合よりも、(c)の3枚偏光板の方がより多くの光を通すことだ。通常のフィルタの常識とは逆の結果なのである。
 Fig.4の状況も、Fig.5に示す数学モデルで明快になるのである。この場合も、偏光板(Polarizer)の向きに対応する順序付き正規直交基底で説明できる。


補足1(偏光板の軸の傾きと順序付き正規直交基底)
 例えば蛍光灯からは、毎秒10の20乗個の光子(光の最小単位)が放出される。光子ひとつづつが、それぞれランダムな方向に波打って進む。その波の傾きが、偏光板(フィルタ)の軸の傾きと一致すれば、その光子は偏光板を確実に通過する。一方、両者の傾きが直交する場合は、光子は通過できず確実に吸収される。では、それ以外の傾きの光子はどうなるのか?それを説明するのが、上記Fig.5なのである。偏光板の軸の傾きに対応した、順序付き正規直交基底(以後、単に基底と呼ぶ)は以下のようになる。その導出計算はここでは略す。
 基底の1番目のケットベクトルは偏光板の軸の傾きに対応し、2番目のケットベクトルは偏光板の軸に垂直な傾きに対応する。偏光板に向かってくる光子は、これら2つのケットベクトルの線形結合になっていると考える。そして、偏光板で見る(光子を計測する)時、光子が偏光板を通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗となる。通過しない確率は2番目のケットベクトルの係数の2乗となる。これら2つの確率の和は1.0となる。これが要点である。

 例えば、Fig.4とFig.5の(c)のケースでは、1枚目の偏光板を通過した光子は全て、基底Aの1番目のケットベクトルになっている。それを2枚目の偏光板で測定する場合には、光子は基底Bの2つのケットベクトルの線形結合となる。したがって、基底Bでの測定で光子が通過する確率は、1番目のケットベクトルの係数の2乗、すなわち、0.5になる。3枚目の偏光板についても同様である。結論として、1枚目の偏光板を通過した光子が3枚目まで通過する確率は0.5x0.5=0.25となる。したがって、(c)の図のようにある程度の明るさでものが見えるのである。

補足2(追加実験)
 最後に、念のためFig.6に示す追加実験を行った。つまり、Fig.4 (c)の実験で使った3番目の偏光板の向きを、2番目と同じく45度に揃えた。すると、順序付き正規直交基底が2番目と3番目の偏光板とで同一になる。そのため、1番目の偏光板を通過した光子の半数が2番目の偏光板を通過し、それらの光子が全て3番目の偏光板をそのまま通過したのである。その結果、(d)に示す通り、(c)の場合よりも明るく見えることが確認できた。

補足3(過去のブログ記事)
 本件に関しては、過去に同様の記事(こちら)を書いた。武田俊太郎氏の解説に基づいたものである。今回の記事は、数学的にやや厳密になっている。

 さらなる詳細は、Prof. Bernhardtの書をご覧いただきたい。緻密でわかりやすい叙述のおかげで、一定の持続力があれば、上記3件の"測定"を十分に理解できるはずである。なお、Fig.1〜Fig.6は本書には掲載されていない。いずれも、小生の理解を明確にするために自作したものである。

2023年4月11日火曜日

App Inventor FoundationのNatalie Lao, Ph.D.との対談

This visit and conversation is featured on the App Inventor Foundation news site (here)!
It is also introduced on the official Facebook , Instagram and Twitter.
 2023年4月7日(金)に、App Inventor FoundationのExecutive DirectorであるNatalie Lao, Ph.D.が、 Dr. Nicholas Kwokとともに神奈川工科大学を訪問され、小生(山本富士男)、田中博教授(情報工学科)、鷹野教授(情報工学科・国際センター所長)と対談いたしました。また、田中(博)研究室では須藤康裕准教授(情報工学科)も加わり、MIT App Inventorなどを利用して開発したデモ説明を実施いたしました。


対談の詳細は、下記の神奈川工科大学ニュース(KAITニュース)をご覧ください。


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ところで、KAITニュースには載せていない当日のデモ模様から
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(1)ソーラーカーレースのリアルタイムモニタ
彼女はこれに大変興味を示し、「スクリーンをビデオに撮りたいのでもう一度デモして」と言ったのでそうしました。以下のビデオは彼女が撮影したもの。(実際のものより解像度を落としてあります。)

(2)量子アニーリングのスマホアプリ
他にもいくつか、デモしたのですが、このアプリ(ライブデモ)もちょっと盛り上がりました!
オーノー、something wrong! がこちら。
トライアゲン... Good, good!、がこちら。
私の4Gスマホ(5Gは持っていません!)と日立CMOS Annealingマシンとの交信です。Elapsed timeはちょっと長かったのですが、実アニーリング時間は72msほどでした。このアプリでは、各画素とその隣接8方向の画素を用いてエネルギー関数(コスト関数)を構成します。それをスマホでやるので、少し重い処理になります。

(3)ゲート型量子コンピューティングのApp Inventorチュートリアル
まだ、構想段階だが、ゲート型量子コンピューティングのチュートリアル的アプリをApp Inventorで作りたい。ということも話しました。先方も、何らかの形で、IBMのQuantumマシンを使っているとのことでした。マスコットとしての、私の自作ブロッホ球を机の上に置いて披露しました!ちょっとはウケたような。

2023年4月6日木曜日

MIT Pressからの出版書籍に本ブログ記事が紹介された

 MIT Pressから最近出版された以下の書籍に、当方のブログ記事が引用されていることを(ある米国人から)教えて戴きました。滅多に無いことなので、記録しておきます。

"Code for What?", The MIT Press [2022]
 この書籍の著者は、Prof. Clifford Lee (Northeastern Univ.)とMs. Elisabeth Soep (YR Media) です。ハードカバーの少し厚い本(全300頁)です。そのChapter 8, p.230で、下図のように紹介されていました。

紹介されている箇所
引用された2件のブログ記事

 引用されていたのは、下記の2件です。#14は英語で書いたのですが、#15は日本語です。日本語でも、恐らく、機械翻訳で読んで戴いたのだと思います。ちょっと、嬉しくなりました。
 簡潔な日本語で論理をしっかり書くことを心がけていますが、あまり自信はありません。もしも、本当にそうなっていれば、機械翻訳の精度も高まるはずです。

#14
https://sparse-dense.blogspot.com/2021/03/using-mit-app-inventor-faceextension.html
#15
https://sparse-dense.blogspot.com/2021/01/awesome-dancing-with-ai-tutorial.html