2022年10月24日月曜日

"Bellの定理"という名前の北アイルランドの通り

 今回は、Entanglement(量子もつれ)に関する著名なBell's Inequality(1964年発表のベルの不等式)について簡単に書きたいと思います。まず、この物理学者John Stewart Bellの偉大な功績を示すGoogle Mapsのスクリーンショットをご覧ください。
 人名に由来する、街の通りは幾つかあると思いますが、数学や物理の定理の名前がついているのはこれくらいしかないでしょう。すでにご紹介済みのProf. Chris Bernhardtの著書[1]に、そういう通りがあると書かれていたので、Google Mapsで検索したところ、上図のとおり発見。北アイルランドBelfastにある大学前の三日月形道路 "Bell's Theorem Crescent" がそれです。素晴らしい!多分無理ですが、Belfastへ旅行できればいいのですが。

ノーベル物理学賞2022とBellの不等式
 今年のノーベル物理学賞は、1982年に "violation of Bell inequalities"(Bell不等式の破れ)を確立したAlain Aspect等に贈られました。ここで誤解のないように書きたいのですが、「Bell不等式の破れ、すなわち不成立」と言うと、Bellが誤っていたかのように聞こえますが、全くその逆なのです。Bellは、ある問題に関する(Local Realism, Hidden Variablesを仮定した)古典物理観点の答えと量子物理の答えが異なること(すなわち、等しくない=inequality)を示しました。そして、量子物理の方が正しいだろうと唱えていたのです。それが、発表から20年近く後に、Alain Aspectによって実証されたのです。このことは、量子物理にとって(従って量子コンピューティングにも)極めて重要なこととされています。

Bellの不等式を古典物理と量子物理の観点から高校数学で理解する
 Bellの不等式の真髄を理解することは難しいかも知れません。しかしながら、Prof. Chris Bernhardtの著書[1]は、ある例題を用いて、高校数学の範囲の数式で、この理論を厳密かつ明快に説明しています。一貫性、厳密性、分かりやすさにおいて、卓越した名著だと感じ入ります。
 それでもなお生ずる疑問や理解が難しい点を、私は、著者にメールで2回質問(EntanglementとBell's Inequalityに関する確認)をしました。すぐに丁寧な回答を送ってくれました。それによって、私の理解は一段と深まったのです。そのメールでの応答はこちらにありますので、ご参考にして下さい。

Bellの理論が量子物理の正しさを示すことの実用的利用
 上のBell's Inequalityは、アカデミックな世界の理論ですが、実は応用上も注目されています。その一つは、現在主流の公開鍵暗号RSAなどにとって替わるとも言われる量子暗号での量子暗号鍵の配送の安全性保証です。これに関しても、[1]に簡潔に説明されていますが、2者間で配送している量子暗号鍵を第三者が盗聴すれば、Bellの理論におけるEntanglementによって必ず露呈してしまう、というものです。Eckert Protocol for Quantum Key Distributionと呼ばれています。

参考文献
[1] Chris Bernhardt: Quantum Computing for Everyone, The MIT Press, 2020.


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