2022年8月28日日曜日

初級量子コンピューティングの旅の目的地Grover

要旨初級量子コンピューティングの旅を2ヶ月ほど続けてきたが、ようやくその目的地Grover(グローバーアルゴリズム)に達した。旅の魅力は尽きないが、次の出発に向けて、ここでひと息とする。グローバー探索アルゴリズムは、ショアの因数分解アルゴリズムと並んで、量子の性質を巧みに利用した傑作である。量子の概念と量子ビット/ゲート/回路の基礎を学んだ後に、このアルゴリズムをIBM Quautum実機で確かめることができた。(→ 一連の旅の日記はこの記事の末尾を参照されたい。)

今回の記事で何をしたいのか
 グローバー探索アルゴリズムを簡単な例で実装するのだが、まず、その狙いを説明する。図1にあるように、整列されていない電話番号簿(小学校名-電話番号)がある。例えば、電話番号241-7312の小学校名を知りたい場合、普通は順番に一件一件、名簿を調べていくだろう。しかし、グローバーは、これと全く異なり、名簿の全ての項目を重ね合わせた状態にして、一度に問い合わせることができる。ただし、精度を上げるために、項目数をNとした場合、√N回の問い合わせを行う。従来の探索では平均N/2回の問い合わせが必要なので、Nが巨大になれば、グローバーの優位性は顕著になるだろう。
 本記事では、グローバーアルゴリズムを量子コンピュータ実機で動かして観察する都合上、扱う電話番号簿は図1右下のように、僅か4項目に縮小して、電話番号 "11" の小学校名を探すという、簡単な例題とした。

グローバー探索アルゴリズムの概要
 ロブ・グローバーによって1996年に発表された探索アルゴリズは、「振幅増幅法」という量子特有の性質を利用したものである。図2にあるように、ステップ(1)として、N個(今回N=4)のデータに対応した量子状態ベクトルを用意し、全状態ベクトルの確率振幅が等しい重ね合わせ状態を作ることから始める。
 次に、ステップ(2)として、探索したい項目番号(今回は"11")の状態ベクトルの確率振幅を位相反転させる。(マイナスの振幅となる。)これは、探したいものにマーキングすることになる。ここで誤解しやすいのだが、「マーキングしたらもう解は分かっているのじゃないのか」と言うかも知れないが、それは違う。解はこの時点で分かっていない。問い合わせたある小学校の電話番号が、マーキングされたものと一致するかを判定するために使うのだ。
 続いてステップ(3)はまさに、振幅増幅である。ステップ(2)でターゲットにマーキングはしたが、振幅の位相が反転しただけであり、依然として全状態ベクトルの確率振幅の大きさは揃っていて見分けがつかない。そこで、全確率振幅の平均値周りに、全確率振幅を反転させる。すると、ターゲットの確率振幅だけが大きくなる。すなわち、それが解に対応する。ただし、他の状態ベクトルの確率振幅もまだ相当大きいかも知れないので、ステップ(2)とステップ(3)を何度か繰り返すことによって、ターゲットの確率振幅の大きさを際立せるのである。

グローバー探索アルゴリズムを実現する量子回路
 このアルゴリズムを実現する量子回路は種々考えられるが、図3はその一例である。それは、アダマールゲート(H)、パウリXゲート(丸の中に+)、CNOT(制御付きNOT)で構成されている。それらのゲートの働きは学んで来たので、この回路の動作を把握することはそれほど難しくない。また、IBM QuantumのComoserでこの回路を作る場合、Investigatorにより、各ゲートを通過した後の状態ベクトルの確率振幅と位相の状況がシミュレーションで表示されるので、理解の助けとなる。

IBM Quantum実機による実行結果
 この量子回路をIBM Quantum実機(5量子ビット構成のmanila機)での実行結果は図4のとおりである。図2でのシミュレーションでは、"11"だけが観測されたが、現状の実機では、種々のノイズによる誤差がどうしても含まれるため、他の"01"、"10"なども若干出現しているが、"11"はダントツに出現頻度が高いので問題ではない。
 さて、念の為、この結果を見方を述べておく。この例では、"11"、すなわち、0番から初めて3番目(電話番号簿では上から4番目)の「香川小学校」が正解であるということである。
 そして、繰り返しになるが、この例では、4件の候補の小学校のうちの正解校をただ1回の問い合わせだけで得ることができたのである。
 今回の記事では、以下の参考資料[1][2][3][4]を参考にさせていただいた。特に、武田俊太郎著[2]から学んだ量子の波の性質を使って複数のパタンを並列に計算し、波と波をうまく干渉させて正しいパターンだけに絞り込んでいくという、量子コンピュータだからこそできる芸当を見ることができた。

これまでの初級量子コンピュータの旅の日記
 量子アニーリング以外の量子コンピューテング(ゲート型)を学んできた際に記した日記(ブログ記事)を以下に列挙しておきたい。

(11) 初級量子コンピュータの旅の目的地Grover(この記事)


参考資料
[1] 中山茂:量子アプリQni - 量子プログラミング初歩、Gaia教育シリーズ52、2022-8-8初版
[2] 武田俊太郎:量子コンピュータが本当に分かる!、技術評論社、2020-3-3初版
[3] 宇津木健:絵で見てわかる量子コンピュータの仕組み、翔泳社、2019-7-10初版
[4] 沼田祈史(IBM):量子コンピューター入門ハンズオン
https://www.youtube.com/watch?v=_b_yEgZh3BE

付録
その後、3量子ビット回路でも、グローバーアルゴリズムを実行できたので、記録しておく。


2022年8月26日金曜日

量子もつれをIBM Quantum実機で体験

 前報のアダマールゲートの模型まで行ったところで、今回は、そのような量子ゲートを使った簡単な量子回路を試してみる。ここに出現するのは「量子のもつれ」である。これは、複数量子ビットのうちのあるビットを量子ゲートで操作した時に、別の量子ビットの状態に瞬時に影響を与える現象のようだ。これを利用して、演算結果として得たい状態を作り出す(結果を絞り込む)量子回路を作ることができる。これは重要な機能となるだろう。

2量子ビット回路による結果の絞り込み
  まず、図1(a)の量子回路だが、これは2つの量子ビットを共に確定値 |0>に初期化し、それらにアダマールゲートとCNOTゲートを適用している。これらのゲートの機能から、最初のビットを観測すると|0>|1>がそれぞれ50%の確率で得られる。それが |0>ならば、2番目のビットは何も影響を受けないが、|1>ならば、2番目のビットは反転して |1>となる。すなわち、この回路の実行結果としては、"00"と"11"がそれぞれ確率50%で得られる。これを、量子シミュレータQniでやってみると、図1(b)(c)のように、確かにそうなるようだ。

3量子ビット回路による結果の絞り込み
 次に、図2(a)は、3量子ビットで量子もつれを引き起こす回路である。今度は、アダマールゲートとCNOTゲートに加えて、パウリXゲートも使われている。この回路の実行結果を予測する手計算も可能ではある。というのも、前回の記事で実施したアダマールゲートの2回適用と同様の計算をすれば良いからである。しかしながら、かなり入り込んだ計算となるので、ちょっとやめておく。

 そこで、図1の場合と同じく、量子シミュレータQniでやってみた。図2 (b) (c)のように、この量子回路の実行結果として、"000"と"111"がそれぞれ50%の確率で得られるようだ。すなわち、量子重ね合わせ状態 (|000> + |111>) / √2 が得られる。ただ、本当にその確率になることを知るには、何度もこの回路を実行して観測する必要がある。

IBM Quantum実機による3量子ビット回路の実行
 この3量子ビット回路の量子もつれによる、上記のような"000"と"111"への絞り込みを実際に確認するため、IBM Quantum実機(5量子ビットのmanilaというマシン)を使ってみた。回路の作成は、図2と同じようなインタフェースで行える。実際、それは図3のようになり、量子シミュレータQniとあまり差はないようだ。
 そして、その実行結果が図4である。ここで注意すべきは、黒枠内の"computational basis states"のグラフである。これは回路を構成(compose)した後に得られたものだ。回路の実行前である。従って、これは事前予測なのだろう。これから試行する1024回のうち、確かに、"000"と"111"がそれぞれ確率50%で得られることを示している。

一方、外側の赤枠の結果が、このIBM機での実際の実行結果である。確かに、"000"と"111"がそれぞれ確率50%近い出現状況となっているが、少し歪んでいる。また、"110"や"101"などの他のビット組み合わせも僅かながら観測された。これは現実の量子コンピュータには種々のノイズが生ずることを示唆しているのかも知れない。
 これは、5量子ビットのmanila機の場合だが、別の7量子ビットのoslo機でも状況は同じようだ。下図も参照願いたい。
 しかしながら、量子コンピュータは、従来のコンピュータとは全く異なり、このように確率の概念の上に組み立てられているのだろう。その特性を把握して、利用価値を見出して行くものなのだろう。
 量子コンピュータは、量子状態の重ね合わせと波の干渉の両方をうまく活かすことができて初めてその真価を発揮すると言われる。上記のように量子ゲートを用いて量子回路を作るという現状は、従来コンピュータで言えば、まだアセンプラかそれ以下の低水準の操作に留まる。しかし、ここまでくると、「波の干渉」を直接考慮する場面は多分少ないので、情報系技術者にとって良いことであろう。

2022年8月25日木曜日

もう一つブロッホ球の模型-Hadamardゲート

 すっかり趣味の世界に入ってしまったようだ。ゲート型量子コンピュータの勉強(理解)は、下図のイメージよりも少しは進んでいるのだが、基本的な事項の可視化にこだわる。

 下図の右側の小さな球体はすでに報告済みのものである。左側の大きな球体を今回、新たに作成した。アダマール(Hadamard)ゲートをイメージしたものだ。 単一量子ビットに対するXゲート、ZゲートなどはX軸、Z軸周りの180度回転なのでイメージできるが、アダマールのように、ブロッホ球を貫く斜め軸(斜め45度)周りの回転はちょっと分かりにくい。 
 そこで、図左側のように、球体内にアダマール用回転板を組み入れてみた。そうすると、例えば、北極にある量子ビットの確定値(|0>)は、アダマールゲートによりx軸上に、重ね合わせ状態(|0> + |1>)√2 に変換されることが手にとるように分かるのであった。この状態にさらにアダマールゲートを適用すれば、(|0>)という元の確定値に戻ることも納得できそうだ。

 念の為、アダマールゲートHを2回繰り返して適用した場合を計算してみよう。
  H(H|0>) = H((|0> + |1>) / √2)
    = (H|0> + H|1>) / √2
    = ((|0> + |1>) / √2 + (|0> - |1>) / √2)) /√2
    = (2 * |0> / √2) /√2
    = 2 * |0> /2
    = |0>
 このように、元の確定値(|0>)に戻ることが確認できた。|1>に対しても同様に、元の確定値(|1>)戻ることが分かる。

 ところで、このようなフィジカルな模型も捨てがたいのではあるが、PC画面によりビジュアルに示してくれるサイトも存在する。下図がその一例である。上図のHadamard円盤の縁に量子状態ベクトルの先端が並んでいる。まさに、

Visual interpretation, on the Bloch sphere, when Hadamard gate is applied twice!

https://physics.stackexchange.com/questions/313959/

2022年8月19日金曜日

光に関する理科実験の量子力学的解釈

 量子コンピュータの理解に必須の量子力学初歩、および量子ビット、量子ゲート、さらにそれらを使った計算の流れの概要を、極く短時間に学びたい(=分かった気になる)、これは多くの人々の願望。書籍やWeb解説などが多数存在するのだが、「最も短時間で」ということならば、藤井啓裕・武田俊太郎他共著[1]を推奨したい。実際に読んでみると、その素晴らしさが分かる。本記事は、この入門書に示されている解説と実験に基づいている。

その後、偏光板に関して、より数学的に厳密な解説を書いた。→こちら

量子コンピュータ入門書[1]で学ぶ
 本書は、全303ページの新書版である。前半は量子力学と量子コンピュータのやさしい入門、後半はラズパイ電子工作による量子コンピュータのシミュレータのようなものを作る。今回は前半のみに絞って検討する。
 まず、下図右側に示した第3章を読むと、量子ビットや量子コンピュータの仕組みの概要が分かる。この章は全20ページだが、新書版なので実際の分量は多くない。これだけで、分かった気にさせてくれるのだから、著者の力量はすごいものだ。続けて、第4章のイラスト解説でさらに補強できる。
 次の第5章は、学校での光の理科実験のように見えるが、これがなかなか奥深い。実験結果に対して「量子力学的解釈」が平易に述べられているのが真骨頂。第3章、第4章の説明を再度引用しながら説明しているので、実験により理解がさらに深まる。どこかで聞いたことのある名前の実験だが、実際に自分でやってみるとことの意義は非常に大きい。以下では、この実験の実際を述べる。

実験1-2:重ね合わせの量子ビットの測定
 図1では、画像「賀正」の前に2枚の偏光板を置いている。Case1では、両方とも軸が0度の偏光板なので、正面からみると画像はほぼそのまま見える。一方、Case2は、画像に近い1枚目の偏光板の軸を右斜め45度に変更した。すると、見える明るさは半減する。この現象は、以下のように、量子力学的に解釈されるのだ。
 画像から多数の光子が発せられる。右斜め45度の偏光板を透過した光子は、縦偏光(0度)の光子と横偏光(90度)の光子が、1:1の重みで重ね合わさった状態と考えられる。その状態は、図1右側のケット(|・>)で表現される。そして、2枚目の縦偏光板(0度)での観測により、50%の確率で「縦偏光」となり、50%の確率で「横偏光」という結果が得られたことを意味する。すなわち、この実験は、「斜め偏光の光子」は「0と1の重ね合わせの量子ビット」に相当すると考え、その測定結果を得るものだったのだ。

実験1-3:測定により量子ビットの状態が変わる
 図2のCase3を見てみよう。画像に近い1枚目に縦偏光板、2枚目に横偏光板が置かれているので、正面からみると真っ暗で何も見えない。これは納得できる。しかし、次のCase2で、3枚目の軸45度の偏光板を2つの偏光板の間に挿入すると、少し「賀正」の文字が見えてきた。これは、不思議である!このあたりが、「量子の世界は日常の経験から外れた現象を示す」と言われる所以かも知れない。
 詳細は本書を読んで欲しいのだが、この現象は、「重ね合わせを測定すると状態が変化する」という量子の性質によっている。中央の右斜め45度の偏光板で測定した結果、光子は元々の重ね状態ではもはやなくなり、斜め45度偏光に確定した状態となったのである。さらに3枚目の軸90度の偏光板で、光子は今度は再び「縦偏光」と「横偏光」の1:1の重みの重ね合わせ状態と見做される。結論として、0.5 x 0.5 = 0.25の確率で3枚目の偏光板を透過することになったのだ。そのため少し画像が見えてきた。
 続いて今度はCase5、これは3枚目の偏光板を回転させていき、2枚目と同じく斜め右45度にした場合である。この時が一番明るく画像がはっきり見える。2枚目を透過した光子が(Case4で)この角度の偏光に変化したのだから、この現象は納得できるだろう。

実験2-1:2つの経路を通った光子の干渉
 ここでは、図3(a)のように、レーザポインタが発する光子を、極細芯(0.2mm)に当てて、その経路とスクリーンに映るパタンを考える。偏光板は使っていない。図3(a)のスクリーンの模様をみよう。結果として、干渉縞がはっきり現れた。これに対する量子力学的解釈は、一つ一つの光子が、芯の左を通るケースと右を通るケースの重ね合わせ状態になっており、これら2つのパターンが干渉を起こし、強まるところと弱まるところが生ずるため、となる。
実験2-2:経路の識別と干渉の消失
 今度は、図3において、図3(b)のように、左側に並行軸の偏光板を置き、右側に垂直軸の偏光板をおいて縁を接合し、そのちょうど接合部にシャープペンシルの芯を置いたプレートを作る。そのプレートの芯にレーザー光を当てた結果、干渉縞は出なかった。量子力学的解釈は、このプレートの通過は「観測」したことに該当し、プレート通過後は、重ね合わせ状態は消失し、縦偏光に確定した光子と横偏光に確定した光子が単にスクリーンに到達するだけだから、となる。
 なお、図3(c)のような、左右が同じ垂直軸の偏光板とした場合は、図3(a)と同様に干渉縞が出現するが、こちらは問題なく受け入れらるだろう。

感想
 簡潔で深いところも覗かせてくれる優れた入門書の一つだ。小生は、「量子力学的解釈」を完全に納得できるまでに達していないが、上記実験を通して、「量子」に一歩近づけたことは間違いない。だが、物理学者でもなく、量子コンピュータ開発者でもない人々にとって、現在の(古典)コンピュータを使う場合のように自由にプログラミングできる日はまだまだ遠い気もしてくるのであった。

(補足)
 本書の内容は、雑誌記事[2]を再編集したもののようだ。また、本記事では、武田俊太郎准教授執筆部分を利用させて戴いたが、共著者の藤井啓裕教授による本実験の解説ビデオも[3]で公開されている。

参考文献
[1] 藤井啓裕・武田俊太郎他共著:ラズパイ電子工作&光の実験で理解する量子コンピュータ、CQ出版、2022年5月1日初版
[2] 算数&電子工作から始める量子コンピュータ:インタフェース2019年3月号、CQ出版
[3] 阪大教授が解説する量子力学と量子コンピュータ(中編)、https://www.youtube.com/watch?v=TIMRjp9E_80

2022年8月17日水曜日

Googleレンズに画像全体認識オプションを付けて欲しい

 まだまだ暑さが続く。すっかり少なくなってしまった水田だが、近所に僅かに残っているところがある。稲穂もだいぶ成長して垂れ下がり始めた。農家としては鳥避けを本格化させなければならない。案山子(カカシ)の登場だ。

 この風景、鳥たちにはどのように映るのだろうか。色んな種類の案山子がいるので、近づき難いのか、それとも、慣れっこになってしまい、あまり怖がらないのか。では、ちょっと飛躍するが、現代のAI(人工知能)がこれらの風景を見た場合、どのように認識するのだろうか。

 AIと言っても色々あるので、何とも言えないが、スマホから最も手軽に使える画像認識用のGoogleレンズの結果は、まだまだだなあ、という感じだ。こちらとしては、個々の案山子の種類を言って欲しいのではなく、「稲穂が実り始めた田んぼに出現した案山子」と言って欲しかったのだが、以下のような結果が...
 (a)人形かかしの風景 →案山子の着ている服が29,700円
 (b)大きな目玉型かかしの風景→草刈り機
 (c)大きな鷲型のかかしの風景→鳥避けカイト鷹

 実は、「稲穂が実り始めた田んぼに出現した案山子」のように、画像からその内容(状況
)の説明文を自動生成する技術はすでにあるのだ。だから、言いたいのは、Googleレンズには、「画像に写っている主要な物の特定」か、または、「画像全体の雰囲気や状況の説明」かを切り替えられるオプションを付けて欲しい!


2022年8月16日火曜日

MIT App Inventor Summer Appathon 2022の結果の発表

 世界規模のスマホアプリ開発コンテスト「MIT App Inventor Summer Appathon 2022」の受賞者が決定した。詳細は、以下のwebページをご覧いただきたいが、優勝作品などの一部を見てみよう。

Appathon 2022の審査概要
 以下のカテゴリーが設定され、応募を受け付けた。
 ・Individual youth - 18歳未満の個人.
 ・Team youth - 18歳未満のチーム
 ・Mixed team - 18歳未満/以上の混成チーム
 ・Individual adult - 18歳以上の個人
 ・Team adult - 18歳以上のチーム
 世界中から数百件のエントリがあったようだが、最終的に完全な提出がなされたのは293件となっている。2週間程度のうちに、発想からデザインを行い、きちんと動作するアプリまで作り上げるのだがら、かなり厳しいのかも知れない。これを国際審査員グループが審査した。このAppathonの組織委員会委員19名(日本人も一人含まれる)は公表されているが、審査員名簿は開示されていない。審査では、各カテゴリー毎に5〜6件程度のFinalistsがまず発表され、その中から、第1位〜第3位の受賞者が決定された。

受賞作品の一部(特に小生の目にとまったもの)
Still Fresh by Cindy Xiao
 これは、Individual youth部門の優勝作品だ。開発の動機、目的、波及効果、手法のいずれも絶賛に値する。公開ドキュメントから、要点をまとめると以下のようになるだろう:

 アメリカでは、食品廃棄の20%は、食品に添付されている期限表示から来る混乱に起因すると言われる。実際、Best before, Best by, Sell by, Use byといった期限表示(和訳すると、「賞味期限」「消費期限」「販売期限」「使用期限」となるか?)が紛らわしい。このアプリStill Freshは、冷蔵庫や食品庫の管理・整理を支援し、どのような食品が入っているかを把握しやすくする。食品庫を効率的に管理することで、賞味期限切れや食べ忘れの食品を捨ててしまうことを回避できる。また、賞味期限切れになる前に、余った食品を地域の食品団体やアプリユーザーに寄付する仕組みも重要と考え、それも実現している。
 さらに、このStill Freshは、持続可能な食のコミュニティを作り、世界の飢餓と戦うために、これまでとは異なるアプローチを目指している。5分弱の説明ビデオがYoutubeに公開されており、作成意図と具体的な機能が分かり易い。
 このアプリは、多数の画面構成で多様なコンポーネントを設定し、様々な画面に素早く移動できるように、下部にメニューバーが用意されている。コンポーネントには、Web、TinyDB、ActivityStarter、Notifier、CloudDB、時計、BarcodeScanner、Location Senser、共有、テキスト、ImagePicker、Maps等が含まれる。例えば、WebコンポーネントはAPIの呼び出しに、TinyDBは情報の内部保存に、ActivityStarterは地図上の道順を開くのに、Notifierはメッセージや警告のアラートに、CloudDBはユーザー間に共有可能なデータの保存に使用されている。すなわち、App Inventorの高度な機能を十分に使いこなした素晴らしい作品となっているのである。

Napp-Primarily Diagnose Lung Cancer and Cataract in Humans by Nisarg Trivedi
 こちらのアプリも、Individual youth部門の作品だ。残念ながら、3位までの入賞は逃したが、Finalists入りしたものである。アプリの概要は以下のようである:

 世界の17% の人々が適切に医師の治療を受けられない農村地域に住んでいる。このアプリの目的は、主に、肺がんと白内障の可能性を、医者にかかる前に、誰でも手軽に調べられるようにすることだ。このように、医療の届かない人々の役に何とか立ちたいという思いが伝わる。
 スマホのカメラで、爪や眼球を撮影して画像を入力し、Image lassificationのextentionを利用して、病気の可能性を判定する。関連する症状の可能性についての専門の解説へ飛んで見ることもできる。使った人からのフィードバックも受ける。
 だが、心配な点もある。ファミリDoctorやwebサイトから学習用(診断)画像を収集したとのことではあるが、このような診断アプリは、医療機関や公的機関と連携して認証してもらった後に公開する必要があるだろう。その点も含めた更なる発展を期待したい。

2022年8月14日日曜日

台風接近通過をスマホの気圧センサで観測する(その 4)

 昨日(2022-8-13)台風8号が通過した(図1)。台風通過に伴う気圧変動の観測は、実は今回で4回目である。前回(その3)の記事はこちら。今回も、過去に作成した気圧記録アプリ(図2)を利用した。


 今回は、厚木市で観測した。気圧変動の経過は図3の通りである。当日、13:00頃から、次第に気圧が低下し始めた。伊豆半島に17:30頃に上陸したので、厚木市付近はその1時間後の18:30頃に気圧が最低になっているのはうなづけるだろう。台風通過後に、気圧が急速に上昇して元に戻っているのが特徴的である。
 ここで、図3の(注)にも注目してほしい。スマホで長時間観測していると、何らかの理由、または、別のアプリ起動などにより、センサからのデータ取得が停止(sleep)することがある。その対策もいくつかあるが、今回は何もしていなかった。結果のグラフを見て、「突然のこんな大きな落差はないでしょう」というが働くことが大事になってくる。
 一方、上図は、2019年の台風19号の場合(上で述べた(その3))である。気圧の下降、上昇の概況は今回と似ているが、台風19号の方は超大型で、鋭い気圧変化の谷が見られた。厚木市で観測された最低気圧は、台風19号は961hPaと猛烈だったのに対して、今回の台風8号は997hPa程度であり、36hPaも差があったのだ。台風も様々である。

 現在のほとんどのスマホには気圧センサが内蔵されている。しかし、ほとんどの人はこれを利用したことがないだろう。今回のような使い方もあるのだ。特に、小学生の理科の自由研究にうまく活用できるのではなかろうか。

2022年8月6日土曜日

アートとしての量子状態ベクトル模型

 量子力学の心得がある人には、何のこともないかと思いますが、初心者が量子コンピュータを理解するための量子力学の初歩。それを象徴する模型を前報で作ってきましたが、ちょっとアート作品にも見えてきました。そう思うのは自分だけか...

 機能してこそアート。量子ビットだけでなく、量子ゲート機能(のイメージ)の一部も忍び込ませた。
ブロッホ球面に示した量子状態ベクトル |ψ>赤丸

y軸周りにπ/2回す回転ゲートのイメージ
|0>(|0> + |1>)/√2

x軸周りにπ/2回す回転ゲートのイメージ
|0> → (|0> -i|1>)/√2

x軸周りにπ/2回す回転ゲートのイメージ
|1> → (|0> + i|1>)/√2
 上記は、X軸、Y軸周りの回転操作であるが、斜め45度の軸周りの回転も重要である。それについては、こちらのHadamardゲートで述べている。

2022年8月5日金曜日

量子ビットの重ね合わせ状態を表すマスコット(Version2)

 量子コンピュータの基本要素である量子ビットの重ね合わせ状態を把握するための簡単なマスコット(模型)を前回の記事で示した。それは下図1の左側のVersion1である。ピンポン玉と針金で作ったのだが、ちょっともの足りない。

 そこで、今回、Version2(図1の右側)を作成した。透明のプラスチック球を入手できたので、量子状態ベクトル|Ψ>を、重ね合わせ状態θと波の位相Φとによって、ブロッホ球に表示した。プラスチック球体内部に、θΦを表す半透明の1/4円板を取り付けたのがポイントである。
 これは、単一量子ビット場合ではあるが、このマスコットを手に取りながら、重ね合わせ状態をイメージしやすくなるので、ちょっとした前進と考えたい!

本当は量子ゲートの模型も作りたいのだが
 さて、量子回路で用いられる量子ゲートの基本的なものも、ブロッホ球面上で動作させてみたいところである。すなわち、Xゲート(ビットフリップ)、Zゲート(位相フリップ)、Hゲート(アダマールゲート)などである。それぞれ、X軸、Z軸、あるいは斜め45度軸を中心に、量子状態ベクトル|Ψ>を回転させる操作であるから、プラスチック球にそれぞれの軸を針金などで作り、それを指で回転させればよい。その時、重ね合わせ状態θや波の位相Φの変化を観察できるはずだ。しかし、実際には手の込んだ工作が必要になりそうなので、躊躇している。多分、これ以上の人手工作はやめて、無料で使えるIBM Quantum実機(またはシミュレータ)の計算を洗練されたグラフィックスで表示してくれるWEBサービスを利用する方が現実的だろう。

2022年8月4日木曜日

すごすぎる自由研究ガイド

 夏休みに入った。小学校では、いろいろ宿題が出るらしいが、なかでも「自由研究」というのがある。これには、子供本人だけでなく、サポートする親も悩むようだ。「何をどういう手順でやったらいいのか分からない」ということだろう。一般的な話だが、生徒や学生に「頑張ってやりなさい」と、教員や親はいつも言う。しかし、「どのように頑張ればいいのか」の具体的な方法は、多くの場合ほとんど示されないようだ。とにかく、「自分で考えなさい」などと言って、その先の支援がほとんど何も与えられないのではないか。

 これに対して、極く最近だが、荒木健太郎さんという研究者が、夏休みの自由研究にどう取り組んだらよいか、その方法と手順を具体的にガイドする解説を発表した。急速に有名になり、「すごすぎる自由研究ガイド」として、多くの人々の関心をひいているようだ。下記に、別の人が紹介している記事がある。

また、荒木健太郎さん自身のTwitterからも辿ることができる。素晴らしい!
解説内容は、以下の4枚のポスターにまとめられている。
  • 「科学的な自由研究」とは?
  • 研究のテーマとはじめかた
  • 実験・観察をして仮説を検証しよう
  • 研究内容をまとめて発表しよう
上記の荒木健太郎氏の資料から引用
(4枚構成のポスターの4枚目)
私の感想
 非常にやさしく書かれているが、研究の取り組み方と具体的な手順は、小学生に限らず、大学の卒業研究にもそのまま当てはまる。ぜひ、大学生にも読んで欲しい。必ずや参考になる点があるだろう。あっそうか、と思いついて、卒業研究の推進に繋がることも多いのではないか。
 「卒論執筆要領」なるものは、卒研の終了段階で学生に配布されることが多いようだ。これは、研究そのものと卒論執筆は別物という意識が働いているためかもしれない。今回の「すごすぎる自由研究ガイド」は、そうではなく、最初から「研究内容を発表する」ことも一体なのだと認識させている。この点も参考になると思われるのだ。