I am a professor emeritus of CS at Kanagawa Institute of Technology, Japan. Originally my specialty was parallel and distributed systems. My current interests include machine learning, natural language processing, creating mobile apps with MIT App Inventor, and quantum computing. In the web version of this blog, clicking the icon on the right (a plastic sphere) will take you to the "List of Quantum Computing Articles". - Fujio Yamamoto (for e-mail, add "@ieee.org" after "yamamotof")
2022年12月31日土曜日
量子コンピューティングの入り口に到達したこの半年
2022年12月29日木曜日
切り干し大根づくりと推敲
2022年12月21日水曜日
Groverの探索(量子アルゴリズム)でコンビニ出店案
【要旨】Groverの探索は、典型的な量子アルゴリズムの一つである。これは、可能性のある全ての探索問合せを量子重ね合わせの原理で一度に行い、量子状態の確率振幅を波の干渉のように増幅/減衰させる。この繰り返しによって、解を浮き上がらせ、確定させる。そのような驚異のアルゴリズムである。その概要は、すでに本ブログ記事[1]でも述べた。ここでは、IBM Quantum Challenge 2019[2]で出題された課題「コンビニ出店案作成」に対するGrover探索による解答例を追試行し、その威力と魅力を確認した。
[量子アニーリングによる結果も、末尾に追加した。]
2022年12月13日火曜日
量子コンピューティングの基礎を学べる書籍を読み終えて
2022年12月12日月曜日
Impressions after reading “Quantum Computing for Everyone”
2022年12月11日日曜日
Simonの記念碑的量子アルゴリズム
●Simonの量子アルゴリズムを実現する量子回路
References
2022年12月4日日曜日
量子テレポーテーションを利用した量子ビットのエラー訂正
References
2022年12月2日金曜日
超高密度符号化と量子テレポーテーション(その3)
2022年12月1日木曜日
超高密度符号化と量子テレポーテーション(その2)
2022年11月28日月曜日
超高密度符号化と量子テレポーテーション(その1)
●2つの量子ビットの状態における量子ゲートの作用
●Bell回路とReverse Bell回路
2022年11月24日木曜日
量子アニーリングによる渋滞解消のための信号制御
今回のこの解説は、今後、種々のアイディアを独自に試す場合の非常に重要な拠り所になりそうです。
2022年11月19日土曜日
深まる秋、落ち葉とどんぐりを拾う
2022年11月16日水曜日
ビリヤードボールを使ったFredkinの万能論理ゲート
【要旨】量子コンピューティングに関するProf. Chris Bernhardtの著書[1]第6章は、"Classical Logic, Gates, and Circuits"だが、一般の論理回路の教科書には多分載っていない「Fredkinゲート」の説明がある。それは、著名な物理学者ファインマンも感銘を受けたと言われる、「ビリヤードボールによる万能ゲートの作成」である。その独創的なアイディアは量子(原子、分子)の衝突を連想させ、ファインマンの量子コンピュータ観に影響を与えたと言われる。この書籍で学んだことを纏めてみたい。(→改訂英語版はこちらをご覧ください。)
●Fredkinのゲートとは
これは、Edward Fredkinが1982年に発表した3入力(x, y, z)3出力の論理ゲートで、論理関数で表せば以下のように簡単なものである:
F(0, y, z )=(0, y, z), F(1, y, z) = (1, z, y)
最初のxは制御ビットなので、出力の1番目にそのまま出る。x = 0 の場合は、yとzとはそのまま出力され、x = 1 の場合は、yとzが交換されて出力される。簡単な計算で示すことができるのだが、以下の特徴を持つ:
- 可逆論理ゲートになっている。すなわち、出力から入力へ到達できる。
- 万能論理ゲートである。すなわち、NOTとANDとfan-out(入力の複製機能)をこのFredkinゲートのみで作成できる。
- 入力と出力の1(True)の個数は常に等しい。これは後述するが、ビリヤードボールの個数が入力側と出力側で常に等しいことに対応する。
Fredkinは、ビリヤードボールを使ってこのゲートを作成する方法を示した。ボール同士の衝突と、ボールと台の淵に置かれた鏡(入射角と反射角が等しい場合を想定した反射板)による反射を使う。ただし、完全な弾性衝突(エネルギーロスなし)や、複数のボールのサイズ、質量、速度、投入タイミングの完全な一致を想定するので、現実的に製造することは明らかに困難であり、概念的、論理的な論理モデルである。しかしながら、この方法は、驚くべき独創性に富んでおり、著名な物理学者ファインマンも感銘を受けた言われる。ボールの衝突が原子の衝突を連想させ、ファインマンの量子コンピュータへの考えにも影響を与えたとされる。
●ビリヤードボールでスイッチゲートを作る
まず、Fredkinゲートを構成するためのスイッチゲートを上記のビリヤードボールで作る。図1に示すように、2入力3出力である。ボールはIn1とIn2から投入される。それらのボールは弾性衝突と右上隅と左下隅に設置された鏡での反射を経て、Out1, Out2a, Out2bへ出力される。入力が2つとも与えられない場合は何も出力がない。In1にだけボールが入ると明らかにOut1にだけボールが出てくる。また、In2にのみボールが入るとOut2aにだけ出力がある。入力出力共に、ボール出現有りを1に、無しを0とすると、論理値表は右側のようになる。
上記のスイッチゲート4個を用いて、最初に示したFredkinゲート(図3)を作ることができる。4個のうち2個は、上で述べた可逆性を使って逆向きにしたものが接続されている。結論から言うと、仮にスイッチゲート自体は作成できたとしても、それを組み合わせて、Fredkinゲートを構成するには超絶技巧が必要だ。すなわち、スイッチゲート間を流れるボールを反射させる鏡を適切に設置する必要がある上、衝突すべき時に衝突し、そうでない時には衝突しないように、経路上に適切に遅延を与える必要があるからである。もしも、それが実現できれば、Fredkinゲートは、図3に示すような、3入力3出力の論理ゲートとして使うことができる。
2022年11月10日木曜日
My understanding of the Quantum Key Distribution Protocol Ekert (E91)
2022年11月6日日曜日
Amazon AlexaとMIT App Inventorのコラボ
2022年11月4日金曜日
量子鍵配送プロトコルBB84をスマホアプリで確認
だが、実際には、Aliceは基底の量子状態ベクトルをBobに送信しているのでその盗聴の有無を確認しなければならない。そこで、両者はこの2n長のビット列の半分のn長のビット列を「暗号化しない通常通信」で送り合って、その一致度を確認する。もしも完全に一致すれば盗聴はないと言える。一方、その1/4が一致しなければ盗聴があったと言える。(そこでは、盗聴するにはその量子ビット(量子状態ベクトル)を測定する必要があり、そうすれば、Bobに送られるべき量子の状態は変化することを巧みに利用している。)
盗聴がないと分かった場合には、合致した2n長のビット列の残りの半分であるn長のビット列をキーとして安全に使える。(実際には2n長が合致しているのだが、上記通常通信により、そのうちの半分は他人に知られている可能性があるためである。)
2022年10月27日木曜日
「量子コンピューティングExpo2022秋」に参加
2日前まで量子物理の基本に関わるBellの定理に取り組んでいた。その発祥の地Belfast(北アイルランド)への旅行は当面無理だが、お馴染みの幕張メッセなら行ける。ということで、本日は一転して、そこで開催の実用指向「量子コンピューティングExpo」に参加した。でも、量子コンピューティングは実用レベルにあるのか?答えは大体分かっているだが、こんなに盛り上がっている状況を肌で感じ取りたい。
■量子コンピューティングExpo 2022秋(10/26-28、幕張メッセ)
まず、会場の雰囲気をご覧いただきたい。下図のように、他のいくつかのExpoとの同時開催なのでかなりの盛況。私は、今回は「量子コンピューティング」に絞って参加した。
量子関係の出展の数はあまり多くはないが、有力な機関が目につく。下図には、東北大学とBlueqat等のスペースが大きく見える。東北大学は実際にはシグマアイという量子ベンチャである。Blueqatも、湊雄一郎氏をトップとする国内で著名な量子ベンチャ。後述するが、「量子ICTフォーラム」という産学官の量子プロジェクトもあった。凸版印刷は、いくつかの量子応用を展示していた。カナダは、D-Waveやxanaduなどで量子の先進技術国と見做されているので、カナダ大使館も応援で出展したのだと思われる。
■量子アニーリングマシンと量子コンピュータ
色々と議論はあるのだが、量子アニーリングマシンは、量子コンピュータとは区別するのが一般的になってきた。量子コンピュータの方は、実用的にはまだまだだが、量子アニーリングの方はかなり実用が進んでいる面がある。例えば、前出のシグマアイ(東北大学)+凸版印刷は、下図のような物流業務の改善を量子アニーリングで推進しているとの展示を行い、注目されたようだ。
■量子コンピュータ(ゲート型)のシミュレータ
量子物理に基づく量子コンピュータの物理的、数学的定式化ほぼ完成しているのだが、実用的な量子コンピュータ(NISQではなく、誤り耐性の実機)を作り上げるにはまだまだ課題が山積している。だが、継続的に研究開発が進められていることも強く感じられた。一方、そのような実用化には時間がかかるので、それまでに、使いやすい、高性能な量子回路シミュレータを利用する動きも見られる。
量子回路シミュレータとしては、IBMのQiskitなどがあるが、今回展示されていたIQM Quantum ComputersのQniも独自の特徴を持つ。その最大のメリットは、一切の登録手続き無しに、いきなりWebブラウザを使って、量子回路(量子ゲートの組み合わせ)をビジュアルに構成して、シミュレーション結果をすぐに得られることだ。以下の図は、配布されていた「量子コンピューティング チートシート」である。恐らく誰でも、少し勉強すれば、これを頼りに基本的な量子回路を作り実行させることができる!
また、これとは別の方向として、nvidiaが開発している量子回路シミュレータA100がある。cuQuantumやQsimというシミュレータをもち、自社の強力なGPU技術で大規模な量子ビット数を扱う量子回路のシミュレーションを大幅に高速化させるとしている。
■誤り耐性の量子コンピュータの実現はいつなのか
Googleなどから、これに関するロードマップは発表されていて、2029年にそれを実現させるとのことである。ただし、その確実性については懐疑的な見方もある。国内では、例えば日立製作所では、すでに独自のCMOS Annealingマシンを世に出しているのだが、今回は、誤り耐性量子ゲート型も開発中であり、その実現は2050年付近とする旨の展示を出していた。この展示は、「量子ICTフォーラム」のブース内で行われていた。
これらの開発見通しについては、次に述べる中村泰信氏へのインタビュー記事が大変参考になるであろう。
■理化学研究所の中村泰信氏へのインタビュー記事
中村泰信氏は、世界で初めて「超伝導量子ビット」を開発し、その制御を実現したことで知られる。現在、理化学研究所量子コンピュータ研究センター長である。中村氏へのインタビューが載った「量子ICTフォーラム通信」が配布された。8ページに渡る詳細な記事だが、その内容が実に素晴らしい。今回、小生がこの量子コンピューティングExpoに参加して得た最大の成果は、この冊子を入手したこと、とさえ言えるのである。誤解などがあるかも知れないが、小生が特に感銘を受けた部分を、独断で以下にまとめた。
Q1:Googleは量子コンピュータの実用化を2029年と発表したが、国産機の実用化は2050年とされている点についてお考えは?
A1(中村氏):「2050年まで絶対にできない」のではない。だが、よその情報に安易に引きづられる形で前倒しするのではなく能動的に判断すべきだ。研究全体の動向を見ながら、ブレークスルーを起こすことを目標として、自分たちでできることを粛々とやっていく。
Q2:国産初の挑戦として、2022年度中に64量子ビット、次の段階で144量子ビットのものを出す計画だが、なぜ、自前で作っていく必要があるのですか?
A2(中村氏):他に先んじられたら「やらない」では、逸するものが多い。日本にも非常に優れた研究者技術者が大勢いる。自分たちで取り組むからこそ、現段階では想定されていないスピンオフや新しいブレークスルーが生まれ得る。
Q3:日本は基礎研究は先行しても社会実装では他国に負けるイメージがあるのですが...
A3(中村氏):「日本は駄目」「アメリカは良い」などと単純な結論に帰結したり、弱点ばかりに目を向けて悲観する必要はない。悲観的に考えてばかりだと何も解決しない。明るい側面を見ながら地道な努力を続けたい。目先に囚われずに、きちんと分野の基礎体力をつけることだ。
Q4:量子技術に関心を持つ企業の人々、研究したいと考えている学生へ向けたメッセージをお願いしたい。
A5(中村氏):特に学生にとって、社会的インパクトが莫大かつ未知の事柄に溢れている量子技術領域は、研究対象として非常に魅力的に映ると思う。一歩をぜひ踏み出して欲しい。企業の方々は、「もうしばらくしてから考えよう」と思うかも知れない。しかし、早いうちから勉強した者勝ちと言える。わずか1年でも景色が大きく変わる可能性がある。ぜひ、目を離さないでいただきたい。
■感想
この出張の帰り際に、久しぶりに厚木有隣堂書店に立ち寄った。2階のIT関連書棚には、AI、機械学習、Web、プログラミング関係の書籍がびっしり数千冊は陳列されている。しかし、その中に、「量子コンピュータ」関係はわずか十数冊しかなかった。だからと言って、大学の情報技術関係者が、「まだいいだろう。もしばらく放っておこう」では寂しい。上記の中村氏の言葉通りである。大学であれば、行き先不透明であろうとも、未だ底知れぬ可能性を秘めた量子情報の分野へ踏み込む人が増えることを期待したい。